【CDレビュー】Base Ball Bear「ポラリス」に聞いた「新しい3人だけの音」とは?

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Base Ball Bearが1月30日に新EP「ポラリス」をリリースした。

作品をリリースする度、その作品が自身の転換期となる、つまりいつだって変化を続けてきたBase Ball Bear。今回も又、バンドの体質が大きく変化した1作となった。

 まずこれが唯一にしてこの作品最大の変化だが、3人のみの音で完全に構成された初めての作品となった。前作「光源」はそれまで一切使ってこなかった同期等を活用して、フォーピース時代と変わらない音数を目指した意欲作だった。Base Ball Bearの楽曲で鳴るホーンやシンセの音は新鮮に聞こえた。その反面、ボーカルギターであり、楽曲造りの中心となる小出祐介本人は今回の「ポラリス」に伴うインタビューでこう語る。

 ただ、前作のアルバム「光源」については後々ちょっと反省点がありました。3ピースになって初の音源なんですけど、それまではやっていなかった同期などで音を盛る方向の作品だったので、やっぱり3人だけで同期なしでライブをやると物足りなさを感じてしまって。

natalie.mu

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また、3人体制になってから「光源」に伴うツアーまで、ライブ活動はサポートギタリストを迎えた4人編成で行っていた。時折3人のみの演奏、あるいはそれ以上の編成でのライブが無かったわけではなかったが、あくまでもライブの軸は4人のみだった。

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2018年、Base Ball Bearは新たな試みとして3人だけで全国ツアーを回った。それも2度もである。同時に各種フェスにも3人仕様でガンガン出演した。それまで4人で演奏していた曲を3人用に再構築・リビルドした上でライブとして成立させなければならない、という気の遠くなるようなことをサラッとやってのけるBase Ball Bearはカッコよくて仕方が無かった。

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この間に小出の新しいプロジェクト「マテリアルクラブ」がスタートした。前年、10人近い編成で行われた「日比谷ノンフィクションⅥ」で得た全能感、新たな感覚が元となり産まれたプロジェクト、そして作品はBase Ball Bearファンだけでなく、音楽ファン皆が注目し、同時にこの活動を踏まえた小出祐介が作るBase Ball Bearの新曲への期待も煽った。

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 2018年二度目のツアーである「Tour LIVE IN LIVE ~I HUB YOU~」最終日名古屋公演、the pillowsとの共演に存分に酔いしれた夜。アンコールで出てきた彼らが新譜のリリースと春ツアーの発表を行った。

 そして演奏された新曲「試される」は文字通り、初めて3人の音だけで制作された曲だった。会場で聞いた時はその事実に途轍もない感動をしたことを覚えている。その進化、変化の歴史を共に歩めたことが何より嬉しい。

そして今、改めて「試される」を聞くと金田一少年の事件簿を彷彿とさせるミステリー感のあるフィクショナルな歌詞と歌謡曲の雰囲気を纏ったロックサウンドにドキドキとする。

この中の誰かが犯人って状況 孤島の館で5泊 

その目が ごめんねと 潤むから

 罪も罰も悪も正義もゆれるだろ!

 こういう歌詞って往々にして、メッセージ性みたいなものが無くなりがちだし、それはそういうものだと思うのだけど、小出祐介がスゴイのはちゃんとメッセージらしいものもこめられているところだ。

得してる奴がさらに得して 損してる奴はさらに損

あの中の誰もが犯人だが  システムを疑えよ

試される 試される

トリッキーなこの世界 

 勿論、ここから何を得て何を考えるか、或いはそう捉えないかは聞き手次第なのだが。

 2曲目に収録された「Flame」。こちらは「試される」とはある意味正反対の、感覚的な歌詞が印象的な1曲だ。痛みや哀しみは誰しもが乗り越えなければならない大きな壁として人生の至る所でぶつかるものである。そんな「誰しもが乗り越える壁」について、作り手の小出が抱いた漠然とした感覚をそのまま歌にしたのがこの曲だ。しなやかに、決して盛り上がる曲じゃないのに、ギターソロがグイグイ来る構成が面白い。

 3曲目の「PARK」はマテリアルクラブで培った小出祐介の新武器、ラップを取り入れたまさしくBase Ball Bearの新機軸。歌詞(というかリリック)は、彼らの作品「The Cut」や「それって、for 誰?part.1」をも超える程強烈な社会風刺だ。

 彼のおかげであんな不正も隠蔽できた でも頭腐魚は唾吐き捨てるだけ

アレゴリーの檻に囚われた 動物たちの棲みかがこのパークさ

管理人はいまだに不在で 代表は馬と鹿 だからシカツ

すべての低さ 生きにくさ 広がってく格差 枯れる草

“みんな辛い時代”に慣れてる次第 だけどこのまんまじゃ Landslide

こういう社会風刺が出来るバンドは年々減ってきているというのが僕の印象で、それは決して良い傾向ではないと思っているんだけど、この曲やBase Ball Bearの「モノ申すスタイル」の楽曲がその風潮に風穴を開けてくれないかなと思ったりしてしまう。

そして表題曲ポラリス

3人の新しいスタートとなるこのEPを締める最後の曲に相応しい、「3」をテーマにした歌詞が印象的な1曲。「三枚起請」(ちなみに志ん朝は落語家)「三弦」「三日月」「三毛猫」「三尺玉」といった「3」に関するワードが連発したり、「赤青黄色」「街と海と私の三角関係」あとこれはちょっと無理くりかもしれないけれど「志ん朝」は「深朝」でもある、などなど、これまでの「Base Ball Bear史」で度々出てきたモチーフがいたる箇所に配置されていたり、小出、関根、そして初めて堀之内がボーカルを務める、とにかく要素がギュっと濃縮されたような1曲だ。

なによりこの1節が今のBase Ball Bearのすべてを物語っている。

 ギタードラムベース 輝くフレーズ 結んだ先にポラリス

 これからも彼らはギタードラムベースであの恒星のように輝くフレーズを結び続けるだろう。

 

Base Ball Bearは既に新しいツアーが始まっている。タイトルは「17才から17年やってますツアー」。これまで彼らが変革を続けてきた17年の重みと、現在の彼らが存分に味わえるツアーになることだろう。ツアーが、そして彼らの次の作品が、これからも止まることのない彼らの活動が、いつものことながら楽しみで仕方がない。

ポラリス

ポラリス