生き続けるロックバンド、その様 ~NUMBER GIRL「TOUR 2019-2020 逆噴射バンド」をZepp Nagoyaで見た~
2月11日、NUMBER GIRL「TOUR 2019-2020 逆噴射バンド」Zepp Nagoya公演を見てきた。そこには、NUMBER GIRLというバンドの生き様と、生き続ける理由があった。
※本記事はNUMBER GIRL「2019-2020 TOUR 逆噴射バンド」のネタバレを含みます
- ぼくとNUMBER GIRL、そしてBase Ball Bear
- 見れるハズの無かったナンバーガールとの邂逅
- 衝撃の音
- 各パートの粒立ち
- 掴めない男、向井秀徳 掴めないバンド、ナンバーガール
- あるいは、それがたとえばナンバーガールだったら
- 生き続けるロックバンド
ぼくとNUMBER GIRL、そしてBase Ball Bear
今更僕が何を言うまでもなく、ナンバーガールは02年に解散した伝説のオルタナティヴ・ロックバンドだ。昨年の2月、突如として再結成を表明し、音楽ファンが狂騒にも近い形で喜びの声を上げていた事が印象深い。
02年に解散した彼らの音楽と94年生まれの僕は本来であれば結びつかないのだが、そのハブとなったバンドがいる。
僕にとってのギターロックバンドの原点はBase Ball Bearというバンドだ。彼らのソリッドでポップな彼らのサウンドは、僕に「ギターロック」という音楽の面白さを今でも教示し続けてくれている。
僕にとってのギターロックの原点である、Base Ball Bearにとっての原点であるロックバンドこそ、何を隠そうナンバーガールだ。Base Ball Bearのメンバー、特にフロントマンである小出祐介は、活動の要所でナンバーガールからの影響を語っている。
象徴的なエピソードとして、Base Ball Bearがメジャーデビューする前、Zepp Tokyoで行われたナンバーガールのワンマンを見たBase Ball Bearのメンバーが、その足でお台場の観覧車に乗り、こここで俺たちもライブをするぞと観覧車の中から叫んだ、なんて話がある。それはBase Ball Bearの青々しいエピソードであると共に、決して快活ではなかった少年少女をそんな衝動に駆り立てる程、ナンバーガールが圧倒的なライブバンドであることの証明とも言えるだろう。その影響は後々のBase Ball Bearの音楽性にも脈々と受け継がれており、特にインディーズ時代の楽曲にはナンバーガールからの影響を色濃く感じることが出来る。
僕がBase Ball Bearを追い続ける中で、当然ナンバーガールにも興味が湧く。だがナンバーガールは前述の通り、僕が音楽を好きになるどころか、物心つくかつかないかの頃に解散してしまったロックバンドだ。後追いで音源を聞く事は出来ても、Base Ball Bearが胸焦がれた、観る者を狂騒の渦に巻き込み衝動に駆るライブパフォーマンスを見ることは、僕にとって叶わないものだった。
見れるハズの無かったナンバーガールとの邂逅
しかし、前述の通りナンバーガールは19年に再結成を果たす。再結成後初のツアーへの参加は叶わなかったが、この「TOUR 逆噴射バンド」名古屋公演には奇跡的に参加することが出来た。あのナンバーガールを、遂にこの目で見ることが出来る。その事実だけで心が弾んでいた。
当日、Zepp Nagoya周辺には当時からのファンであろう30~40代だけでなく、僕と同じ位の世代であろう観客の姿も沢山あった。ナンバーガールに影響を受けているのはBase Ball Bearだけではない。ASIAN KUNG-FU GENERATION、ゲスの極み乙女。、星野源。他にも幾多ものロックバンド、ミュージシャンがナンバーガールに多大なる影響を受け、その魂や血は脈々と今の音楽シーンにも引き継がれている。そしてそんな後進の世代のバンドのファンがそれぞれのバンド・ミュージシャンのルーツを探った結果、今こうして僕を含めた世代の違うファンが生まれている。ナンバーガールは、解散後もそうしてロックシーンで生き続けてきたのだ。
開場してフロアに入ると、客入れSEが無く、無音のステージが姿を見せた。この前日も僕はZepp Nagoyaで打首獄門同好会のライブを鑑賞したが、その際はSEだけでなく映像も使った実にきらびやかでキャッチーな客入れだった。
それと比べると今日は実に質素、乱暴に言ってしまえばSAPPUKEI、もとい殺風景とすら言いたくなるような雰囲気だった。SEが鳴っていないだけではない。徐々に埋まっていくフロアも、他のバンドのライブならばザワザワしていてもおかしくない程の人数が集まっても尚、張り詰めたような静けさと空気があった。SE、そしてフロアの雰囲気。僕がこれまで感じたことのないような感覚があの時間のZepp Nagoyaには確かに存在した。それはナンバーガールのあの焦燥的な音楽性が引き起こす緊張だ。彼らのライブを自分の目で目撃するという事実に観客が慄きすら感じていることを肌で感じ、いつしか僕が抱いていた期待も緊張へと姿を変えていた。
ステージに目をやると、向井秀徳の赤いテレキャスター、田渕ひさ子のジャズマスター、中尾憲太郎のモズライトが並び、その後ろにアヒトイナザワのカノウプスドラム。何度も聞いた「サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態」のジャケットに写されていた楽器たち。ナンバーガールの象徴とも言える楽器の姿が目に入るだけで、一層緊張感が増していった。
定刻を少し過ぎた頃、ゆっくりと客電が落ち、代わりにステージが照らされる。TELEVISIONの「Marquee Moon」が鳴り出すと、先程までは静かだったフロアが一気に熱を帯びだす。
そして現れた4つのシルエット。向井秀徳、田渕ひさ子、中尾憲太郎、アヒトイナザワ。見れるはず無いと思っていたナンバーガールが今、僕の目の前に現れた。見れるハズの無かった、ナンバーガールとの邂逅だ。
衝撃の音
昨年の「TOUR NUMBER GIRL」は1曲目が「大当たりの季節」だった。WOWOWの中継で日比谷野音公演を見ていた僕は、その意外な選曲に少し面食らったことを覚えている。ナンバーガールの楽曲の中ではミドルテンポで小気味良い1曲。ジリジリとした彼らの表立ったイメージとは逸脱した楽曲を敢えて復活の1曲目に据えたのは、バラバラだった彼ら、そして彼らのファンのペースを合わせるためのアイドリングのような、あるいはナンバーガールの音を自分自身に馴染ませるためのものだったのか。或いは彼らも解散から20年近く経ち、齢を重ね落ち着いたことの現れなのかと思っていた。
しかし今回の「逆噴射バンド」の1曲目は「鉄風 鋭くなって」。
前回とは趣の違う、最初からフルスロットルにギアを入れるかのような、文字通り鋭すぎる4人のZepp Nagoyaを八つ裂きにするような演奏に、フロアは1曲目から狂乱の様相。
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の冒頭、マーフィがドクの研究室に入り、自分の背丈よりも大きなアンプにギターを差し込み、1発ストロークした瞬間にその音圧で吹っ飛んでしまうというシーンが存在する。あれは一種のギャグシーンであり、音で体が吹っ飛んでしまう、なんてことは普通ならありえない、と僕は思っていた。しかし今回のナンバーガールのライブ1曲目。彼らが発す4つの音が重なったその瞬間、まるであのバック・トゥ・ザ・フューチャーのシーンのように、身体が音圧に負けそうになる感覚を覚えた。ギター、ドラム、ベース。その全ての楽器の音圧があまりにも強く、それらが重なると更にアクセルを踏み込んだような音の圧になる。最早音を出してるというよりは「空気を音で揺らしている」という感覚に近い。服が、肌が、空気の振動でここまでビリビリとしているのは初めてだ。その音圧に、空気の揺れに、意識的に負けないようにしないと本当に飛ばされてしまいそうになる。
各パートの粒立ち
ナンバーガールは4ピースバンドだ。つまりその演奏は4つの楽器による音が混在する合奏となる。アンサンブルというのどれかひとつの音が目立ちすぎると崩れてしまう。僕自身、中学生の頃の合唱コンクールの際、声がデカ過ぎてその癖ハズすモノだから担任の教師にやんわりと指摘されたりした。そのくらい、アンサンブルというのは個よりも集合体を重視し、4つの音が上手く噛み合わなくてはならない。
しかしナンバーガールの演奏と言ったらどうだろう。4つ全ての音が強烈に自己主張しまくっているのだ。ギターの6本の弦が、ベース1本1本の弦が、ドラムの各部がそれぞれ自己主張強く鳴っていることがハッキリと分かる。普通ならば合奏として成立しない程の音だ。
しかし、それと同時に4つの音は歯車のようにキッチリと噛み合い、アンサンブルとしても成立している。いや、最早「アンサンブル」なんて綺麗な言葉ではない。4人の卓越した音楽家、バンドマンが本気で鳴らす4つの音がぶつかり合って生まれる1つの音の塊。其の塊は荒々しくも綺麗な形をしている。そんな感覚がナンバーガールの4人の演奏にはあった。
掴めない男、向井秀徳 掴めないバンド、ナンバーガール
ナンバーガールのフロントマン、向井秀徳は想像以上に変な人で。この日は「いちいち説明しませんよ 義務教育やないんだから」と、漫談家のテントの台詞を何度も何度も話してみたり、ビールガンガン飲んでみたり、Van Halenの「JUMP」を丸々1曲演奏まで含めて口で歌い切ってしまったり。
そこに観客の僕達は意味を見出せないんだけど、その掴め無さこそナンバーガールの音楽性でもあるなとも思ったりして。
ナンバーガールの音楽ってやっぱり他のバンドと比べてみてもどう考えても異色で。ボーカルは音小さいし、何について歌っているのかも僕たちは分かったような気になっているけど、結局分からない部分も沢山あるのがナンバーガールってバンドの曲だよなとも思う訳で。その掴め無さ、その訳の分からなさを少しでも理解しようとして皆ナンバーガールを聴き続けているのかとも思った。
あるいは、それがたとえばナンバーガールだったら
あるいは、ナンバーガールでしか歌え得ない感覚、感情、瞬間があったとして。キリキリと、ヒリヒリとしたあの青春期に対する言葉にならない感覚、感情、瞬間。それをここに集った者達は皆追い求めているのかもしれない。そんなことを、僕はアンコールの最後、「おかわり」として歌われた2度目の「透明少女」を全身で浴びながら感じていた。
生き続けるロックバンド
生きていて良かった。ここまでずっと音楽を、ギターロックを好きで良かったと、そう思えた夜だった。一度はその姿を闇に眩ませたナンバーガールだが、全てのギターロックバンドの血肉となり脈々と受け継がれてきたその様は、僕がこれまで見てきたどんなロックバンドよりも情熱的で、ソリッドで、ロックだった。この先も、ナンバーガールのあの音と様は僕の中でOMOIDE IN MY HEADし続けることだろう。
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- アーティスト:NUMBER GIRL
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- メディア: CD