打首獄門同好会は何故ラウドロックとエンターテインメントを融合させたのか?【ライブ感想・レポ】

打首獄門同好会「獄至十五」ファイナルワンマンツアーZepp Nagoya公演を見た

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2020年2月10日、打首獄門同好会のワンマンツアー「獄至十五」ファイナルツアーZepp Nagoya公演。「生活密着型ラウドロック」を自称する彼らのワンマンライブは、ラウドロックとエンターテインメントの融合体だった。

※以下、「獄至十五ファイナルワンマンツアー」のネタバレを含みます。

この日のZeppは超満員。老若男女、小学生から大の大人まで様々な層のファンがZeppに集っていた。

会場に入ると、客入れSEに代わる形で昨年1年間で打首が自身のツアーで47都道府県を回った足跡が、各地の対バン相手のMVと共に流されているという粋な計らいが。打首から対バン相手への感謝であり、改めて良い音楽を皆で楽しもうという気持ちを感じてしまう。忘れらんねえよ、ネクライトーキ―、ニガミ17才、the telephonesヤバイTシャツ屋さん眉村ちあき…改めて実にバラエティ豊かな対バンだったんだなと思いつつ、開演前からそんな各対バン相手の音源に思わず身体が動いてしまう。

47都道府県すべての日程の映像が終わった頃、場内が暗転。彼らの入場SEであるバックドロップシンデレラの「池袋のマニア化を防がNIGHT」と共に、Vo.Gt大澤会長、Dr.河本あす香、Ba.junko、そしてVJの風乃海の4人が顔を揃え、ライブが始まる。

打首獄門同好会は「生活密着型ラウドロックバンド」を自称している。ハードコアやヘヴィメタルから派生して生まれたとされるこのジャンルは、音だけ聞けばドスの効いたベースの低音と激しいドラム、さらにギターリフも重めととにかく極めてヘビーなサウンドが特徴と言えるだろう。打首もサウンドは確かに激しい曲が多い。今回のライブでも序盤から「きのこたけのこ戦争」などサウンドだけでなく、ボーカルもデスボイスによる重たい楽曲が演奏されていた。

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しかし、彼らの楽曲はそんなラウドな部分を差し置いても圧倒的にキャッチーなのである。

例えば今回披露された曲であれば「まごパワー」や「はたらきたくない」は一度サビを耳にすれば思わず口ずさんでしまいそうになるほど歌メロがキャッチーである。

打首獄門同好会は他のラウドロックバンドが重要視していないであろうメロのキャッチーさをしっかり練っているように思う。

彼らがキャッチーなのはメロだけではない。近年の楽曲ではサウンドの作り方もよりキャッチーになっていた。例えば「布団の中から出たくない」「なつのうた」なんかは、まさにキャッチーな歌メロに加えさらにサウンドそのものももキャッチーでポップで誰もがとっつきやすい、NHKみんなのうた」で放送されてもおかしくないような楽曲に仕上がっている。

ライブになるとそのキャッチーさはより一層受け手への求心力を持つ。例えあまり聞き馴染みのない曲だとしても、1番を聴き終わる頃にはもう口ずさみ、共に叫ぶことが出来てしまう。彼らの楽曲の魅力のひとつと言えるだろう。

なによりも彼らの「生活密着型ラウドロック」の「生活密着型」の部分。これこそが打首獄門同好会最大の魅力である。

例えばここまで挙げてきた様々な楽曲達も、テーマは「ユルい」。きのこの山たけのこの里における「どっち派?」という日常の何気ない会話を戦争に置き換えた曲、「はたらきたくない」「あつい」「さむい」「孫がかわいい」という人間の極めて些細な、とはいえ生理に近い感情をあるがままに歌った曲。紛れもなく「ユルい」題材だ。

様々な食べ物について歌った曲、自身の好きなテレビ番組の台詞を羅列した曲。どの曲もラブソングでもなければ反戦ソングでもない。誰かを揶揄している訳でもない。自身の赴くまま、感情・欲望のままに歌われたようなユルさと面白さを醸し出している。だがそれこそが彼らのキャッチーさとポップさ、そして親しみやすさに繋がっているのだ。

そしてそんな彼らのキャッチーさと言う魅力はライブでは「エンターテインメント」という形に変化する。

一番わかりやすい彼らのライブならではの魅力と言えば「VJ」である。彼らがまだ今ほどの人気を獲得する前からVJは彼らならではの大きな武器だった。どんなに小さなライブハウスでも自らディスプレイを持ち込んでVJを展開するほど、彼らはVJにこだわりを持っていたように思う。今回はZeppという日本のライブハウスでも最大規模の会場であり、舞台演者の背後には巨大なスクリーンが掲げられ、そこにステージ上のVJの操作による映像が常に投影されていた。

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演奏曲に合わせてステージ上の大画面にテーマに合わせて様々な映像がテンポ良く切り替わる様は壮観だが、そこに映されるのは例えばサザンオールスターズMr.Childrenのライブのような壮大な映像ではなく、むしろある種のチープさを感じさせる映像だ。それはあの映像の一部がパワーポイントで作成されていること等に由来するのだろうが、そのチープさやDIY精神が結果として親しみやすさに繋がっている。映像の導入によりライブハウスのどの位置からでも楽しむことが出来る彼らのライブは、モッシュなどの激しいライブが得意ではない人、例えば子供や女性、年配の方でも参加しやすいのではないだろうか。

演出も分かりやすい。そもそも彼らがワンマンライブをあまりしないこともあるのだろうが、今回のワンマンは地方公演にも関わらず普段のフェスや対バン以上に熱が入っていた。

例えば「カモン諭吉」においては彼ら自作の「ニセ一万円札」がステージ上から客席に降り注ぐ演出があったり。

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「デリシャススティック」の前には「うまい棒」が配られる瞬間もあり。

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「島国DNA」で鮪型の風船が客席に投下されたと思っていたら続けざまに「ニクタベイコウ」が始まり、魚と肉の形をした風船が共にZeppの宙を舞うという思わず「なんじゃこりゃ!」と言ってしまいそうな演出もあり。

なにより今回ならではのスペシャルなトピックと言えばゲストの登場だ。今回のワンマンツアーで各地でゲスト出演があったのは打首獄門同好会の公式Twitterでも言及されていたが、名古屋には打首獄門同好会の盟友、ロックバンド・アシュラシンドロームからボーカルの青木亞一人が登場。彼と打首獄門同好会にまつわる関係性は説明すると長くなるので割愛するが、ファンとしてはとにかく嬉しい。本編では3曲、アンコールでも1曲青木が歌うシーンもあり、大いに楽しむことができた。これもファンを喜ばせる「エンターテインメント」と言えるだろう。

 

そんな彼らのエンターテインメントが爆発したライブを見て思ったことがある。

打首獄門同好会は「ラウドロック」と「エンターテインメント」の融合という、今まで誰も成し得たことのない、前人未到の境地に到達しようとしているのではないだろうか。

彼らは何故、「ラウドロック」と「エンターテインメント」を融合させたのだろう。

 

ここからは少し個人的な話をしてみようと思う。

打首獄門同好会は僕にとってかれこれ6年以上聞き続けているバンドである。

友人に勧められたのか、YouTubeで見たのか、水曜どうでしょう関連で知ったのか、キッカケこそ忘れてしまったが、彼らがまだ今ほど人気が無かった頃から能動的に聞いていたように記憶している。

14年末には初めてライブに参加した。100人程度のキャパの小さな名古屋のライブハウス。対バンはボーカルが文字通りすっぽんぽんでライブハウスをハチャメチャに動き回っていた「巨乳まんだら王国」とヨーロッパのリズムをパンクやオルタナに昇華した、今の打首獄門同好会のライブ開始のSEにもなっている「バックドロップシンデレラ」。

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当時まだまだライブハウスには慣れていない僕にとってそのライブあまりにも衝撃的な光景であり、音であったように思う。演者と気軽に話すことが出来たという衝撃も含め、より幅広い「ロック」の面白さに一層のめり込んだのもあの頃からで、そのきっかけは打首獄門同好会だったように思う。

その後、打首獄門同好会は「日本の米は世界一」をリリース。破竹の勢いで人気を獲得し、どんどんライブのキャパは大きくなり、遂には日本武道館ワンマンを成功に収めてしまった。

彼らの人気の上昇はとても嬉しかった。誇らしかった。

ただ近年はタイミングが上手く合わず、彼らのライブにはあまり参加できなくなっていた。今回のワンマンは、実に5年振りのライブハウスで見る打首獄門同好会だった。

当時5年前に見たライブハウスの10倍近いキャパのZeppを超満員にして、当時よりも数段進化した、でも根本的な魅力は変わらないVJを使って、一層ユルくなった当時は無かった曲を何曲も演奏して、打首獄門同好会は「遊んで」いた。

彼らがラウドロックとエンターテインメントを融合させるのには、きっと2つの理由がある。ひとつは決して万人ウケするジャンルではないラウドロックを、彼らはエンターテインメントを以って万人へと広めたいという思い。もうひとつはライブハウスを参加者誰しもが楽しめるような「遊び場」にしたいという思い。そんな彼らのふたつの理由と、アイデアと努力の結実の結果が、日本武道館ワンマンであり、5都市Zepp含むワンマンツアーであり、ミュージックステーションへの出演なのではないのだろうか。

改めて、日本武道館ワンマンの成功、47都道府県ツアーとワンマンツアーのソールドアウト、Mステへの出演。本当におめでとう!

彼らはもっと大きなステージに立てる筈だ。アリーナ公演、4大フェスのメインステージへの出演、いずれはドーム公演だって。そのくらい彼らの楽曲やライブには、万人を惹きつける魅力がある。これからの打首獄門同好会にも益々注目したい。沢山の人に注目してほしい。そう思えたライブだった。

 

打首獄門同好会 「獄至十五」ファイナルワンマンツアー

2.10 Zepp Nagoya公演 セットリスト

1. こどものねごと
2. だいたいOKです
3. きのこたけのこ戦争
4. まごパワー
5.(新曲)
6.糖質制限ダイエットやってみた
7. はたらきたくない
8. 47
9. New Gingeration
10.なつのうた
11. 猫の惑星
12. Shake it up 'n' Go~シャキッと!コーンのうた~
13. デリシャスティック
74. AJPN
15. 10獄食堂へようこそ feat.青木亞一人
16. 島国DNA
17. ニクタベイコウ!
18.おどるポンボコリン
19.日本の米は世界一
20.カモン諭吉
Enc.
1.布団の中から出たくない
2.フローネル
3.Get Wild(歌唱:青木亞一人)

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獄至十五

獄至十五

  • アーティスト:打首獄門同好会
  • 出版社/メーカー: Living,dining&kitchen Records
  • 発売日: 2019/09/25
  • メディア: CD