「stico presents The Dawn of Chapman Stick Vol.2!!!」に見た、関根史織の強烈なチャップマンスティック愛とは?

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チャップマンスティック

弦が10本あり、木の板のような見た目をした、ギターとベースの両方の魅力を兼ね備えたアメリカ生まれの楽器。世にも奇妙で摩訶不思議な1本。

そんなチャップマンスティックに強烈に魅了された女性がひとり。

関根史織

Base Ball Bear紅一点のベーシスト。人妻。ベーシストとしてメキメキ腕を磨く一方で、チャップマンスティックという楽器とめぐり逢い、その魅力に嵌り切ってしまった彼女は、Base Ball Bear本隊でスティックを演奏するに飽き足らず、チャップマンスティックを演奏する為の新バンド「stico」を結成する。

sticoは、関根史織Base Ball Bearの1stアルバム「C」をプロデュースするなど元々Base Ball Bearにも縁深いtatsu、そして空気公団コレサワ、□□□などのサポートドラムを叩くオータコージというメンバーで構成される。sticoは昨年の12月に結成されて以来、東京でのワンマン公演や、海外バンドの日本公演ゲストとしてライブを重ねた。

そして3月11日、sticoが愛知県 名古屋 APPOLO BASEにて、2度目のワンマンライブ『stico presents The Dawn of Chapman Stick Vol.2!!!』を開催した。この記事ではこのライブの模様をレポートしていく。

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18:30、開場。当日券の販売もあり、決して満員のライブハウスとは言えなかったが、その分パーソナルスペースを取りやすく、ゆったりと自由にライブを見れそうな雰囲気が場内に漂う。 

ふと物販に目を向けると、そこにはピンクの衣装に身を包み、缶ビールを飲む関根の姿。彼女が自ら、それもひとりきりで物販に立ち、直接Tシャツを販売するという、Base Ball Bearでは絶対にありえない光景がそこにはあった。僕自身も、Tシャツを彼女から直接購入させて頂いた。僕にとってBase Ball Bearは神様のようなバンドで、そのメンバーの一人である彼女も神様みたいな存在な訳で、Tシャツを1枚買うだけでガッチガチに緊張してしまった。気の利いた事のひとつも言えない僕にも、優しく対応して頂いた。

開演時間5分前まで彼女は物販コーナーでTシャツの販売を行っていた。そして19:00、時間通り開演。入場SEも無く、ローディが機材をセッティングする訳でもないから演者が自ら舞台上で機材をセットアップし、全員の準備が整った所でスタートする。

ライブが始まって直ぐに、関根の口から今回のライブのコンセプトが伝えられる。「私がいかにチャップマンスティックを溺愛し、傾倒しているか」を2時間で見せる。今回はそういうライブだと話し、演奏が始まる。

sticoはインストバンドだ。基本的に歌はない。その分1曲1曲が長く、そして濃い。歌が無い分ひとつひとつの楽器の手数も多いし、一瞬一瞬の演奏が今まで聴いたことのない音で溢れている。激しさを纏った曲も、不思議な音像の曲も、実に様々だ。そして音源をリリースしていないsticoのライブは全ての曲が新鮮。1秒先の展開が分からないドキドキが、ライブ中ずっと続いている、そんな2時間だった。

前述の通り、チャップマンスティックという楽器はギターとベース、両方の魅力を兼ね備えた楽器だ。ベース音も、ギターのような音も演じることが出来る。だが、ただ単にギターやベースの音がするのかと言われればそうでもなく、特にギター弦の方はチャップマンスティック特有の浮遊感のある音を聞くことが出来る。ルックス、音、実際の演奏姿。その全てが摩訶不思議、世にも奇妙、そして今までどこでも見たことが無いという魅力に溢れている。

そんなチャップマンスティックを時に笑顔で、時に鬼のような形相で、時に世界で1番気持ち良さそうな顔で、缶ビールを飲みながら演奏する関根は、僕が今まで見てきたどんなバンドマンよりも音楽と演奏する楽器を愛していた。

MCでも関根の「チャップマンスティック愛」が爆発。チャップマンスティックがどういう楽器で、どういう経緯で作られて、どう使われていたのかといった雑学や、自身がどれだけチャップマンスティックを愛しているかを終始ニヤケっぱなしで話す彼女の姿は、大好きな玩具を手にした時の子供のような、あるいは人生で初めて本気で愛する人を見つけた少女のようでもあり、見ているだけでこっちまでなんだか嬉しくなってしまう。

また、「stico」というバンド名が決まった経緯を話すシーンでは、とある人物がチャップマンスティックを溺愛する彼女を見て「そんなにチャップマンスティックが好きならチャップマンスティ子に改名しろ」と言われたことがきっかけだったと恥ずかしそうに話す。その一方で、sとiが関根史織のsi、tがtatsuさんのt、coはオータコージさんのcoから来てるのだとベボベのドラマーである堀之内は思ったらしく、関根はそれを聞いてそっちの方がかっこいいからそういうことにしておこう、なんて秘話も飛び出した。

序盤、1曲だけ撮影可の時間があり、写真と動画を撮影させて頂いた。f:id:fujimon_sas:20190311234610j:image

写真撮影等も含め、良い意味でのユルさがsticoのライブにはあった。このバンドの魅力のひとつ言えるだろう。まだまだ出来たてのバンドだからこその自由さが今回のライブにはあった。

本来はインストバンドであるsticoだが、ワンマンを名古屋で開催するにあたり「ひよった」とのことで、3曲程関根がボーカルを執る楽曲も。「ソングライティングに興味が無い」と話す関根だったが、彼女のキュートな歌声は立派な武器だ。Base Ball Bearでも何度となくメインボーカルを務めてきた彼女だが、同じライブの中で何曲も関根のボーカルを聞くことが出来るのはsticoのライブだけなのではないだろうか。

今回のライブの中でとりわけ素晴らしかったのが、ライブ後半に演奏された「暇を持て余した人妻の日記」という楽曲。関根がおもむろに手に持った日記帳を、さながらポエトリーリーディングのように読み、それに合わせて曲が進んでいく。その内容は「アレ」に魅了された人妻が、旦那に隠れてこそこそと「アレする」というもの。最初こそ、ド下ネタな曲なのかとも思ったのだが、割と早い段階で「関根のチャップマンスティックへの想い」ということに気がつく。しかしその日記の文面がどんどんと鋭角になり、それに合わせて曲もどんどん鋭さを増していく。そして人妻は人前で「アレをアレする」事に快感を覚えるようになる。誰の人の目も気にせず、一心不乱に「アレ」を愛する様は、さながら狂気。フィクションとも、ノンフィクションとも言えない「暇を持て余した人妻の日記」。まさしく他のどこでも見たことも聞いたことも無い音楽だった。

2時間のライブで最後に演奏されたのは「セルフカバー的に」とBase Ball Bear「LOVESICK」。この前日、本来であればAPPOLO BASEの姉妹店であるダイアモンドホールにてBase Ball Bearのライブが開催される予定だった。が、それはメンバー小出の急性扁桃腺炎により延期。そういう背景を含めても、或いは抜きにしても、関根がこのタイミングにこのバンドでBase Ball Bearを歌う、という所にちょっとグッと来た自分がいたのは言うまでもない。

fujimon-sas.hatenadiary.jp

Base Ball Bearファンだけではなく、音楽好きにこそ見て欲しい、聞いて欲しいバンド「stico」。今まで見たことの無い世界、景色が自分の目前に広がる感覚は、音楽の持つ最大の魅力のひとつであり、彼女達の音楽はそんな「今まで見たことの無いなにか」に溢れている。なにより関根史織の狂信的と言っても良い程のチャップマンスティックへの愛情の片鱗が見ることが出来るのはきっとsticoのライブだけだろう。今後も東京だけでなく、今回のように地方でのライブも開催して欲しいし、音源のリリースだってして欲しい。まだまだ生まれたてのstico、きっとさらなる野望がある筈。その日を首を長くしながら待ちたい。

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