Base Ball Bear 名古屋公演の中止に僕が思ったことのあれこれ

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3月9日。友人達と岐阜にあるラーメン屋で談笑しながらTwitterを見てると、Base Ball Bearの岡山で行ったライブが、Vo/Gt小出の喉の不調によりアンコールが行われなかった、という旨のツイートが流れてきた。Base Ball Bearは翌日に名古屋でのライブを控えており、僕も名古屋公演に参加する予定だったので、公演中止等の心配も含め、不安に思いながらラーメンを啜った。

翌日、3月10日。昼を過ぎ、そろそろ家を出ようという時間になっても特に名古屋公演に関する情報が更新されることは無かったので、なんとか開催するのかなと思い最寄駅から電車に乗った。直後、公式にライブ中止、振替公演の開催がアナウンスされ、自分の間の悪さに少し凹んだ。

 電車の中で、スマートフォンを触る。Yahooニュース、ライブドアニュース、LINEニュース。音楽メディアだけでなく、各種大手ニュースサイトまでもが今回のライブ中止の報を知らせている。僕が思っていた以上に大事になっていて、小出が責任を感じていないだろうか、と一ファンとして不安になる。

もうそのまま帰ろうか、とも思ったのだが、友人が名古屋に居ると聞き、合流するべくそのまま名古屋に向かった。ものの、結局合流するまで時間が出来てしまい、小出以外の2名が会場で挨拶する、という情報もTwitterまことしやかに囁かれていたので、そのまま行き慣れたダイアモンドホールへと足を向けてみた。

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地下鉄の駅の階段を上がりきると雨が降り、風も強く吹く新栄町が現れる。天気すらも不穏だった。駅から歩いて5分とかからないダイアモンドホールへと歩を進める。Base Ball Bearのグッズを持つ4人組のグループが笑顔で談笑しながら信号を渡っていて、彼らは公演中止を知っているのか知らないのかと心配になる。

ダイアモンドホールに着くと、既に長蛇の列。公演中止のアナウンスをスタッフが行ってはいるものの、列が散る事は無い。本来の開演時間である17時の15分前に開場したのか、列が動き出す。ダイアモンドホール名物の長階段、普段なら一人一人丁寧に整理番号で呼ばれ、それに合わせてゆっくりと上がっていくところだが、今回はスムーズに上る。普段のライブなら、スタッフが整理番号のチェックをしている場所に貼られている公演中止のお知らせに一抹の寂しさを覚える。チケットがもぎられる事も、ドリンクチケットと500円玉を取り替える事も、荷物をロッカーに預けることも無く、そのまま来たままの状態でフロアへ進んでいく。楽器のない舞台。客入れSEもない。全てが普段のライブとは(当然ながら)異なる違和感に塗れているダイアモンドホール。ザワザワと、でも時折フッと静かになる会場には、どことなくピリピリとした緊張感すら感じた。皆、バンドの事が心から心配なのだ。

17:00。主催者ジェイルハウスの担当者が登壇。改めて今回の中止の経緯を説明。小出はショックで半ば憔悴してたこともあり、既に帰京してるとの事。小出ひとりの責任ではなく、バンド、スタッフ、主催者全ての責任である、ということが語られる。誰も悪くない。当たり前だ。そして、関根、堀之内の両名は直接挨拶がしたいと登壇してくれる旨が改めて担当者の口から伝えられる。

この時、担当者が頭を下げるのに対して何故か客も揃って頭を下げていたのが印象的。その姿はまるで学生の頃、集会で登壇している校長先生の話を聞く時に校長先生に合わせて頭を下げる学生のようだった。僕も含めた皆、こんな経験はしたことがないのだからどうしたらいいのか分からないのは当たり前だろう。

担当者が袖に合図をすると、黒の服に身を包んだ関根と、赤いシャツに上着を着た堀之内が登壇。ここまでの話し合いで疲弊したのか、単純にショックを受けているのか、両名とも少し憔悴した顔を見せていた。

先ずは関根の口からこういうことになって申し訳ないという言葉。いつもは小出のことを「こいちゃん」と呼ぶ関根も、今日ばかりは「小出」と呼んでいた。それは彼女が小出に怒っているからとか、そんなことでは全くなく、大人としてのマナーであり、我々ファンへの心遣いのひとつだろう。小出も相当悔しがっていた、との事。万全じゃない状態の演奏を見せるより、万全な状態でライブに臨みたかった、とも話す。そして「私事ですが...」と言うとここまでピリピリしたムードだった会場から笑いが漏れる。翌日に予定されたsticoのライブの宣伝。「ソングライティングに興味のない私が曲を書いた」と湿っぽくならないように冗談も交えながらも、「(曲を書き続ける)小出を改めて尊敬する」と話す関根史織は、どこまでも逞しく、バンドメンバー同士の強い絆を感じさせた。

続いて堀之内からの言葉。改めて申し訳ないという話。前日に開催された岡山公演から小出の喉は既に調子が悪かったことをそれとなく挟みつつ、「俺が全曲歌う位のつもりでいた」と話せば、堀之内ファンの多い名古屋は「うおおー!!!」と言葉にならない盛り上がりを見せる。その盛り上がりの裏で関根が「誰に需要があるのそれ...笑」と話していたのが僕は妙にツボだった。前回のツアーファイナルが名古屋で、新曲リリースとツアーの発表をして、そういう場所で皆気合が入っていた、だからこそこういう結果は申し訳ない。とも堀之内は語った。

17年やっててこういう経験は初めて、と話すふたり。逆に言えば17年間ファンに支えられてきたとも。振替公演に来れる人も来れない人にも、次にライブに来て頂ける時はもっともっとその恩を返したい、と強い言葉で話す堀之内。僕は明日も無いし、曲も書かないけど、と言うと場内は爆笑。今日は集まってくださってありがとうございます!と言うと場内からは大きな拍手が起こった。

かくして、今回のライブ延期に伴うバンドメンバーからの挨拶は終了した。最初こそ、少しピリついた雰囲気ではあったが、基本的にはあたたかい雰囲気で挨拶が進んで行ったのが印象深い。時間にして10分程度、堀之内と関根、Base Ball Bearというバンドの持つ誠実さをヒシヒシと感じた10分だった。

 

数ヶ月、長ければ半年近い長い時間のうちに何度も何度も2時間に渡ってミュージシャンが歌を歌い続ける「ライブツアー」。僕らは当たり前にそれを楽しんでるし、ミュージシャン達も当たり前みたいな顔でツアーをやり通しているが、喉の調子が悪くなったっておかしいことではない。僕ら一般人がカラオケでぶっ続けで全力で2時間歌ったら喉が何らかの異常を見せる。ライブはミュージシャン達の強靭な体力と徹底的なケアによって支えられている。どのミュージシャンも全力で喉のケアをして、一公演一公演を全力で臨んでいるのだ。小出祐介もそのひとりだ。ライブ中に加湿器を炊いたり、新幹線の中でマスクをせずに咳をしている隣の席のおじさんにブチ切れてる彼をツアードキュメントなどで僕は見てきた。それは彼がひとつひとつのライブに本気で臨んでいる事の現れだ。それでも、どれだけ本人が必死に喉のケアをしても、様々な事情や原因で喉が壊れてしまう事もある。まさに、今回はそういうケースだったのだろう。誰も悪くない。

バンドは永遠じゃない。絶対でもない。だからこそ、僕ら音楽ファンはひとつひとつのライブを本気で楽しむし、演者が辛い時はファンが支えなければならない。それを改めて強く感じた一日だった。
4月の振替公演は、僕ら名古屋のファンが彼らをいつも以上に本気で迎えるし、きっと小出も関根も堀之内も、本気で演奏してくれることだろう。今はただ、その日を待つだけだ。

fujimon-sas.hatenadiary.jp