赤い公園に捧ぐ
赤い公園はどこまでもポップで、その癖変態チックな音楽を鳴らすバンドだ。
代表曲「NOW ON AIR」は、イントロの1音目から鼓膜を吹っ飛ばすかのような轟音が響く。ギターは歪んでいるし、音が多すぎて驚く。オルタナティヴだな、と一瞬思ったりすると、それも違うことに気が付く。キーボードが跳ね、力強いボーカルを爽やかなコーラスが支え、オルタナティヴと呼ぶにはどうしよもなくキャッチーなのだ。聴く者は皆、その変態性にのめりこんでしまう。
彼女たちの楽曲の作詞作曲、プロデュースを務めるのはギターを担当する津野米咲。彼女の持つ豊かな音楽センスが赤い公園の推進力の大きな部分を担っていたことは否定のしようがないだろう。SMAPやモーニング娘。への楽曲提供を担当したり、Base Ball Bearのサポートギタリストを担当するなど、バンド外での活動も積極的に展開してみせた。「Joy!!」はSMAPの曲の中でも、屈指の多幸感に溢れた1作だ。
僕が赤い公園に一層のめり込んだのは、石野理子の加入後からだ。新体制で1曲目に作られた「消えない」は、赤い公園の最高傑作のひとつだろう。
シリアスに響くギターリフ、切なくもダンサブルな歌メロ。前ボーカルの佐藤千明とはまた違う、石野理子の凛とした力強い歌声。燃え滾る意地と魂が表出した歌詞。初めて聞いた瞬間から自分の気持ちがグングン高ぶるのを感じたことを今でも覚えている。
以降の赤い公園はリリースを重ねるたびに傑作を連発した。シティポップのようなオシャレさとキュートな「Highway Cabriolet」。ストレートなギターロックが疾走感を生み出す「凛々爛々」。どの曲も全く違う要素を兼ね揃えながら、ポップであり、ロックであり続けた。僕にとって彼女達は唯一無二のキラキラとギラギラを兼ね備えた色鮮やかなポップバンドだった。
19年の春、初めて彼女たちのライブを見た。「消えない」そして「Highway Cabriolet」に受けた衝撃の勢いのままチケットを取った。四日市 CLUB CHAOS。150人キャパの小さなライブハウスの最前列、眼前で燦然と輝くポップロックは今でもこの目に焼き付いている。津野のギタープレイも、踊るように歌う石野も、藤本や歌川のパワフルな演奏も、すべて目に焼き付いている。
2020年10月19日、津野米咲が亡くなった。
唖然とした。嘘であれと祈った。ニュースを知った直後に食べた昼食の納豆と冷奴と豚しゃぶは、全て味が違うはずなのに同じ味に感じた。午後の仕事は手につかなかった。悲しくて悲しくて、言葉が出なかった。
赤い公園の最新作「THE PARK」を改めて聞いた。印象的だったのは、終盤の3曲だ。「曙」「KILT OF MANTRA」「yumeutsutsu」と並ぶ3曲のどれもが、生の予感や未来への意思を感じさせるものばかりだった。
もう綺麗な鶴にはなれないとしても
それが生きていく事なのかもしれない
「曙」
迷い疲れて嫌になっちゃったら
一緒に踊ろうタンタタタ
「KILT OF MANTRA」
行こうぜ
うつくしい圧巻の近未来
絶景の新世界
「yumeutsutsu」
最初に聞いた時はそんな風に思わなかった訳で、彼女の死と結果的にこのアルバムが遺作となったことが僕のこのアルバムに対する感覚を変えたのかもしれないし、それが果たして真っ当な音楽体験なのかと聞かれれば難しいのだが、少なくとも2020年の10月19日に聞いたこのアルバムからは生の匂いと輝く未来の予感を覚えた。新体制1枚目のフルアルバムに相応しい、大きな1歩目の感覚に満ちていた、
だからこそ、一層彼女の死がどうしようもなく辛いのだ。
赤い公園の今後がどうなるのかはまだわからない。前ボーカルが脱退したあの時のように立ち上がるのか、はたまたここで止まってしまうのか。今はただ、3人の選択を見守ることしかできない。
彼女たちが例えどんな選択をしようとも、津野米咲が生み出したKOIKIなポップ・ロックの数々も、あの日見た変態チックなギタープレイも僕の心の中で消えることも、消すこともない。これからもずっと。