赤い公園の新曲「消えない」に込められた、2つの「これまで」と「これから」。

赤い公園の新体制初めてとなる新曲「消えない」のMVがYouTubeにて限定公開された。

本題に入る前に先ず、赤い公園のこれまでの歩みをおさらいする。

昨年の7月、ボーカルの佐藤千明の脱退が発表され、同年8月27日に開催された「熱唱祭り」が前体制での最後のライブとなった。
その後沈黙が続いたが、今年5月に開催された「VIVA LA ROCK」で新ボーカルの加入を発表。新ボーカルは元アイドルネッサンス石野理子。アイドルネッサンス時代は主要メンバーとして、その類まれなる歌唱力で「アイドルネッサンス」というグループを一層独特なアイドルにしていた石野。
今年2月のアイドルネッサンスの解散は、もしかすると赤い公園佐藤千明の脱退以上に青天の霹靂だった。事実、解散発表を踏まえて元々開催予定だった対バンライブはワンマンに変更となったし、解散とは別に制作も進んでいたという話も各所から出ていることからも、如何にこの発表が突然だったのかが分かるだろう。
アイルネ解散以降、沈黙を守り続けた彼女だったが、まさかまさかの赤い公園のボーカルとしての加入が発表。奇しくも、アイドルネッサンスとしてのラストアルバム「アイドルネッサンス」が発売された同日のVIVA LA ROCKでの加入発表となった。赤い公園・アイドルネッサンスのファンだけでなく、ロックバンド好き、アイドル好きにも大き過ぎる衝撃を残した。今年の音楽ニュースの中でもかなり大きく、ポジティヴなニュースとなった。
VIVA LA ROCKでのパフォーマンスはネットでも生中継された。石野理子のパフォーマンスは、まるでアイドルのダンスのように身体を自在に操り、歌唱だけでなく、彼女のすべてを使い尽して「赤い公園」を表現していた。
赤い公園石野理子が加入した経緯には、やっぱりというかそりゃそうかというか、Base Ball Bear小出祐介が絡んでいた。彼が石野を赤い公園に新ボーカル候補として紹介したことがきっかけになって、加入が決まったと、小出自身がTBSラジオ「アフターシックスジャンクション」に「人と音楽が交差する下北沢ライブハウス『GARAGE』ってどんな所?特集」のゲストとして出演した際に語っている。

radiocloud.jp

その後、赤い公園は「BAYCAMP」「Talking Rock!Fes」と2度の夏フェス出演を経て、今回の新曲MV公開に至る。

ここまで詳細に赤い公園の歩みを記した理由は、今回の「消えない」が、石野理子赤い公園の両者のこれまでとこれからを歌っているからだ。

何度も励ましてくれた
お気に入りの曲が
初めてうるさく感じた
行き止まりの夜の中

赤い公園佐藤千明の脱退は、ネガティヴなモノではないとされている。が、いくらメンバー間で折り合いがついている脱退だろうと、脱退は脱退である。まして、バンドのフロントマンを務めるボーカリストの脱退というのは、バンドの根幹そのもの揺らぎであり、それが喩え一瞬だとしても、バンドそのものの存続も内部で危ぶまれたことだろう。

一方で、石野理子にとって主戦場だったアイドルネッサンスの解散もまた、自身の芸能活動のその後や各メンバーの活動が危ぶまれた瞬間と言えるだろう。解散以降、ソロ活動を続けるメンバーもいれば、未だにその後の展開が分からない(或いは「普通の女の子」に戻った)メンバーもいる。

このフレーズの「何度も励ましてくれたお気に入りの曲」というのはバンドとしての赤い公園にとってはそれまでの自分たちの楽曲、石野理子にとってはアイドルネッサンスの曲たちだろう。自分を鼓舞してくれていた曲が、いつしか彼女たちにとっての大きすぎるほどの十字架となっていたことが想像に容易い。「行き止まりの夜の中」でそれまで走り続けた脚を両者共に止めなくてはならなくなってしまった。

 

わかってる
わかってる

さよならなんて簡単な言葉に詰まるのはなぜ
終わらせたっていいけれど
終わらせるなら今だけど

バンド活動を、芸能活動を終わらせることは彼女たちにとって簡単なことだっただろう。タイミングとしても、今後が分からない状況も、「終わらせるなら今」となることにも頷ける。

しかし彼女たちは「終わらせる」選択をしなかった。「さよなら」という言葉を使わなかったのだ。

沈むタイタン号
燃える人形町
声を荒げる水金地火木
なのに消えない
消えてくれない
心尽きても何かが消えない

赤い公園のGt.津野米咲石野理子の加入を「音楽の神様からの贈り物」と表現していたが、僕はむしろ自分の中に燃え滾る「まだやれる」「やり残したことがある」という感情が、彼女達を惹きつけ合わせたのだろうとこの歌詞を読んで確信した。「運命」なんて便利な言葉、なんて歌う曲もあるけれど、やっぱり運命ってあるよな、と、VIVA LA ROCKの映像で石野理子の加入を知った時も、この曲のMVを見た時も、そして改めてこのフレーズをこうして読んでみても確信せずにはいられないのだ。

こんなところで消えない消さない

赤い公園というバンドが紡ぎ続けてきた唯一無二のポップロックを、アイドルネッサンスで培った幾多もの経験とそこで培った己の活動に対する沢山の感情を「消さない」。この曲の最後の一節が「消さない」というところに彼女達4人の意地を、覚悟を、執念を感じずにはいられないのである。

津野米咲のカッティングに、独特のリズムを刻むドラムが絡んだと思っていたら、音がなだれ込んでくるイントロ。石野理子の若さが声に現れた良い不安定さと前ボーカル佐藤千明とはまた違った独特の雰囲気を併せ持つ歌声がサウンドに乗ると、赤い公園らしさと赤い公園らしく無さという本来対極の位置にあるはずの両者が一気に爆発し、それこそが「新・赤い公園」なのだと聞き手に有無を言わさぬ勢いで納得させてしまう。

やはりこの曲は「赤い公園」のこれまでとこれから、そして石野理子、或いは「アイドルネッサンス」のこれまでとこれからというふたつの「これまで」と「これから」を歌っていると僕は解釈してしまうし、だからこそ泣けて泣けてしかたないのである。赤い公園の、そして石野を含めた元アイドルネッサンスのメンバー皆の「これから」がすべからく幸福であることが、この曲によって証明された。

アイドルネッサンス [2CD+Blu-ray Disc]

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