桑田佳祐と佐藤郁実の関係性に見る、音楽を「魅せる」方法論
今回は音楽とダンサーのお話を。
音楽における「ダンサー」って、ジャンルによって必要かそうじゃないかが特に分かれますよね。ダンスミュージックにはもちろん必要だけど、パンクロックには必要じゃない。そんな中で「ポップス」という音楽ジャンルはその辺の線引きがひどく曖昧。あってもいいし、なくてもいい。ポップスってつくづく曖昧なジャンルだよな、と思うこの頃でございまして。
そして「ダンサー」がどういう立ち位置で存在するかもグループによって大きく分かれる。EXILEとかPerfumeとかジャニーズみたいに、グループのメンバーそのものにダンサーを内包している人達がいれば、あくまでも「バックダンサー」として、ダンサーを内包しないようなグループをダンスでサポートするダンサーさんも沢山います。
そんな中で、近年の桑田佳祐とあるバックダンサーの関係性がとてもエンターテイメントに溢れている!ということで、サザンファンにもそうでない方にもご紹介。
そのダンサーさんは、佐藤郁実さん。
佐藤さんが最初に桑田佳祐関係の仕事をしたのは09年の音楽寅さん2期のとき。これはご本人もTwitterで明言してらっしゃるのですけど、「21世紀ベストソング20」で桑田さんが山下智久の「抱いてセニョリータ」を歌われた際に初共演だったとか。それ以来かれこれ8年間、ダンスを通してサザンファンに大きな衝撃を与え続けてきたのです。
例えば、2012年の桑田佳祐ソロツアー「I LOVE YOU -now & forever-」では、後半の盛り上がりのピークに配置された「波乗りジョニー」で、まさかのダンサーである佐藤さんが桑田さんのマイクを奪い取り、曲を締めてしまう演出が。
その大役を任されたのが他でもない佐藤郁実さん。その模様は「桑田佳祐 LIVE TOUR &DOCUMENTS 「I LOVE YOU - now & forever -」完全版」に収録されたドキュメントの中で確認できます。この演出、桑田佳祐の割とその場の思いつきで始まったもののようで(とはいえそういう微妙な修正を重ねることこそ制作物を良くする為の秘訣だと思うのだけど)、佐藤さんも最初は「そんなの出来ないー!!」的なリアクションをしてたんですけど、本番では堂々たる演技。完全に会場の雰囲気を自分のモノにしていたんですよね。サザンファンが彼女を明確に認知するキッカケがその演出だった気がします。
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そもそも佐藤さんは桑田さんと同じく湘南出身。そして元来からのサザンファン。そういうところでも彼女は桑田佳祐と通じ合うものがあったからこそ、こういう流れが生まれたのかもしれません。
これは彼女自身のダンスチームの映像。めっちゃくちゃカッコいいな...ダンサーとしても並外れた技術を持っているからこそ、桑田佳祐のライブ演出に抜擢されていることがよく分かります。
その後も佐藤さんは桑田佳祐の活動をサポートし続けます。2015年のサザンオールスターズの全国ツアー、「おいしい葡萄の旅」ではライブ中数回に渡りステージに登場。「死体置場でロマンスを」では、ベーシストの関口和之との濃密な絡み(是非映像でご確認を 笑)を魅せ、「エロティカ・セブン」ではセーラームーン風の衣装で登場。既に息ピッタリな桑田佳祐とのプロレスを魅せる。アンコール前には別の男性ダンサーと2人だけで舞台に立つと、「アブラ・カ・タブラ(TYPE3)」に合わせてミュージカル調の寸劇が始まるというもの。僕はこの「おいしい葡萄の旅」、ナゴヤドームの初日と日本武道館2日目の2公演に参加したんですけど、ココの寸劇の何が凄かったって武道館の時に「郁実~~~~~~!!!!!!!!」っつって叫んでるお客さんが居たんです。一端のバックダンサーの名前をファンが知っていて、何なら名前を大声で呼ぶってもうこれメンバーじゃんかと。他のバンドや他のダンサーさんじゃ絶対に無いことですよ。凄いなと。ちょっともうレベルが違うなと。
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なんでここまで郁実さんはサザンファンに浸透したのだろう。
桑田佳祐って人は本当に音楽を「魅せる」ということにこだわり続けているんですよね。例えば、彼がよくやる「放水」ネタ。「火薬や花火に制限はあるけど、水に制限はない。これ以上スケールの大きいもの存在しない」という旨の話を本人がしていたり。そういう「魅せ方」を桑田さんは物凄く気にしてらっしゃるんですよね。その極地が、近年のダンサーの使い方。「ダンサーをダンサーとしてだけ使うのではない、ダンサーを使った新たな魅せ方」を桑田佳祐は生み出してしまったのだと。
その極地が2016年の「ヨシ子さん」。
このメイクと衣装、そしてひたすらに一点を凝視したり、歌詞に合わせてエロ本を読んでみたりと、もはやそこに「ダンサー」らしさは皆無。だけど、「ヨシ子さん」という歌世界を画的に「魅せる」ことに大きく貢献しているんですよね。この異質感、「なんだこりゃ」感こそ「ヨシ子さん」という楽曲に内包された感覚。これこそ「ヨシ子さん」という楽曲そのものが具現化された状態に他ならないというか。事実、テレビ番組で「ヨシ子さん」を披露した時には「あれは誰だ!?」と大きな話題になりました。09年以降様々な形で桑田佳祐ワークスに関わり続けてきた佐藤さんのある意味での集大成がココにあった気がします。
ダンサーを単にダンサーとして使うのではなく、魅せ方を考慮して新しいダンサーの在り方を提示した桑田佳祐の制作における姿は、彼自身が音楽に、そしてポップスに真剣に向き合い続けた結果とも言えるのではないでしょうか。音楽の魅せ方を真剣に考察し、修正を重ね、既存の概念に囚われず、新しいチャレンジを怠らない。それこそが音楽を「魅せる」ための方法論なのだと、桑田さんと佐藤さんの関係性から教わった気がします。10月から始まる桑田佳祐のソロツアーでは、是非彼女の姿にも注目して欲しい。そこにはきっと、桑田佳祐が音楽の「魅せ方」をどれだけ考えているか、そして佐藤郁実との師弟とも言えるような関係性が見えてくるはずです!
参考サイト
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