【祝・ソロ活動30周年】ふじもと的・推し「桑田佳祐ソロ楽曲」
遂に桑田佳祐の最新作の発売が発表された。
もうね、やっとかって感じなんですよ。アルバムをリリースすることはもう1年くらい前から桑田さんの口から散々示唆されてたし、何ならもう収録曲大体決まったよ~レコーディング終わったよ~みたいな事も散々言ってたからリリースすること自体は分かってる。分かってるのに肝心のリリース日やら収録曲やらをもうぜんっぜん発表しないでやんの。それが発表されるまでこっちはもう気が気じゃない。ビルボードやってロッキンオン出て今年終わりか!?みたいな。そんなわきゃあ無いのにね。とにかくやっとリリースが確定されてホントに私は嬉しいのです。
今年で桑田佳祐のソロ活動は30周年。少し前にサザンが30周年とか言ってたのにもう今度はソロが30周年なのか~と、齢22(今月23になります)のクソガキが感慨に耽るわけでございまして。30年活動しりゃそりゃあそれなりに楽曲も増えるわけですよ。ライブやっても「え?これやらないの?」が巻き起こる訳ですよ。サザンの比じゃないけどさ。
今回は桑田佳祐のソロ楽曲に焦点を当てて、桑田佳祐ソロ楽曲の魅力とは何なのかを語れればと。もう何億番煎じの記事になる予感がプンプンしてるぜ。それでもやるぞ。
①悲しい気持ち (Just a man in love)
1987年、 桑田佳祐のソロデビューを飾ったのは、シンセサイザーがキラキラと光る明るいポップス。歌詞は別れた彼女を忘れられない情けない男を描く。この明るいサウンド×切ない歌詞、という構造のスペシャリストは桑田佳祐だと思っている。サザンの「YOU」や「彩~Aja~」、「涙のキッス」なんかはそういう文脈の楽曲だろう。これぞ桑田佳祐節。編曲に小林武史がクレジットされているのも、この楽曲のポップさたる由縁だろう。
②今でも君を愛してる
前述した「悲しい気持ち」と地続きのような世界観。イントロのコーラスラインがとても素敵。ホーンが入っているのに、主張し過ぎずあくまでも「歌」に寄り添っている所も泣きたくなるくらい良い。「夜毎 雨の囁きを」って歌詞もいいよね。雨の囁きってワードセンスがドキドキする。
③月
桑田佳祐ソロワークス第2期。アコギの音が中心に据えられたサウンドは、「悲しい気持ち」〜「Keisuke Kuwata」期の打ち込みポップスとは全く逆の方向性。歌詞も母親の死の影響を色濃く感じさせ、サウンドも相まって人間:桑田佳祐を丸裸にさせ、当時の彼の思考や思想を真空パックしている様。風のように流れるハーモニカの音も、僕の心を鷲掴みにする。
④漫画ドリーム
例えば、HIPHOPにおけるラッパーはマイク1つで様々な世界を魅せる。そういう意味で「漫画ドリーム」における桑田佳祐は、ギター1本で渇いた日本社会を描ききっている。この曲は僕が生まれた2ヶ月後に発売されたアルバム「孤独の太陽」に収録された1曲、つまり23年前の曲だが、今でもなおこの曲は(現代の)日本社会にも有効だ。
賄賂・献金 ぎょうさんもろてや!!
今日も報道の名にて 下司な情報の嵐
妙な風潮の丘に 吹く洗脳の嵐
いずれも現代に十分通用する歌詞...どころか益々その切れ味は鋭くなってるとすら感じる。「もり・かけ問題」における賄賂や献金、芸能人のプライバシーなんぞお構い無しの「ゲスな報道」、後を絶たない悪徳宗教法人やブラック企業の報道はいずれも「洗脳」の一種だろう。23年前にリリースされた楽曲が今なお有効、というのは日本社会の「成長してなさ」を露骨に表していて、何とも言えない気持ちになる。
週に十日はボケた日本
世は狂乱ホリデイ
悲しみのニュースが今
なぜジョークみたいになっちまうんだろう
何より、ラスサビ前に放たれるこの一節が、社会に巻き起こる問題に対する日本国民のある種の無情感や諦めの様で、とてつもなくリアルなのだ。
桑田佳祐伝家の宝刀、夏ソング。推測ではあるが、この楽曲本当はソロでリリースする予定ではなかったと思う。それまでのソロ楽曲と比べて余りにもサザンオールスターズ過ぎる。この頃は特に、サザンのギタリスト大森さんの脱退とか、色々ゴタついていたからソロでやらざるを得なかったんだろうとか、その前の年に初めて茅ヶ崎で凱旋ライブやっちゃって一つの到達点を迎えてしまったんだろうとか、色々なことを考えたり。この辺からソロとサザンの差別化が図られなくなった感は否めない...のだけれど。やっぱりこういう爽やか夏ソングが桑田佳祐には似合う。
夏イメージが強い桑田佳祐の、唯一冬がテーマの曲で大ヒットを記録したのがこの「白い恋人達」だろう。クリスマスを彷彿とさせるベルの音、別れた彼女のことを想う歌詞、ファルセットの強い歌唱。
ただ逢いたくて もう切なくて
恋しくて... 涙
キラーワード過ぎる。桑田史上でもここまで赤裸々な歌詞ってなかなか無いのではないだろうか。ダッフルコートを着てもいいかな~って時期になると聴きたくなる。
第4期ソロワークス。このあたりから歌詞に「老い」みたいなものを顕著に感じるようになる。
熱い涙や恋の叫びも
輝ける日はどこへ消えたの?
明日もあてなき道を彷徨うなら
これ以上元には戻れない
過ぎた過去、若すぎたあの頃への追憶。この曲の主人公は「熱い涙」や「恋の叫び」が輝かなくなってしまった地点から、過去を懐かしみ、未来を憂いている。でも、本当ならそんな季節は存在しない。いつだって人は涙を流していいし、恋してていいと思う。何よりそれは、この後のフレーズに集約されている。
泣きたい時は泣きなよ
君は気付くでしょうか?
その鍵はもう
君の手のひらの上に
夢や希望、恋という扉を開く鍵は、誰しも本当はいつだって持っていて。歳を取るとそういう「扉」から目を逸らざるを得なくなるから「閉じている」と錯覚したり、自ら鍵を捨ててしまったりするんだけど。そんな必要が無い、ということを桑田佳祐は僕らに説いている。
その生命(いのち)は永久じゃない
生命は限りある。だからこそ、人は奇跡の扉を探すのだ。
⑧ダーリン
夏目ナナ可愛すぎん?
2016年以降の桑田ソロ、もっと言えば2013年~2015年までのサザン、とりわけ2015年にリリースされた「葡萄」、これらはかなり「歌謡曲」をテーマに制作されていて。
そのキッカケを遡っていくと、2007年リリースのこの「ダーリン」に辿り着く気がする。勿論、それ以前にも歌謡曲チックな楽曲はあったけど、ここまで歌謡曲に振り切った曲ってこれが初めてだったのではないだろうか。今に続く路線のキッカケの1つとして聞くとこの曲の聞こえ方も変わってくる気がする。
別れた彼女にカッコつけながらもホントは悲しくて悲しくて仕方がなくて涙を流す男。共感しかない。
第5期ソロワークス。この時期は特に色々あった頃だったのだけど、曲としては60年代ビートルズ調というか、「Ob-La-Di, Ob-La-Da」を彷彿とさせるピアノの跳ねるようなイントロ、なだれこんでくるイントロにドキドキ。
⑩銀河の星屑
80年代、サザンとして「人気者で行こう」や「KAMAKURA」などの作品を創り出した桑田佳祐。いずれも当時としては珍しいテクノサウンドを積極的に導入した作品で、今なおサザンファンの間では名作として評価の高い作品たちだ。その後も打ち込みサウンドは桑田佳祐作品のそこかしこに散りばめられてる。この「銀河の星屑」もまた、打ち込みを多用したサウンドメイキングなのだが、これまでの作品と決定的に違うのは、打ち込みと同時に「バイオリンも一緒に鳴らされているところだろう。これについては「MUSICMAN」評でも書いたので是非そちらを読んでみてほしい。
歌詞も「老い」を越えて「死」を彷彿とさせる。「MUSICMAN」リリース前年のことも相まって、鬼気迫るような歌唱に圧倒されてしまう。
⑪愛しい人へ捧ぐ歌
亡くなった女性を想うラブソング。
また生まれかわって僕と踊ろうよ
一つに重なって風になろうよ
こんな駄目な 野暮な男のわがままだけど
No,I'll never cry.
もう一度そばにいて
「生命」は永遠ではない。「生命」のその先に辿り着いても、貴方と共にありたいと願う歌詞は、「愛」そのもの。「音楽」にとって「愛」は永遠のテーマだが、「愛」に対する一つの解答を桑田佳祐が導き出したと言っても良いだろう。
⑫愛のプレデュード
女友達への恋心に気付いてしまった男の、甘酸っぱいドキドキを描く。60にもなって、まるで童貞みたいなこんな歌詞を書いてしまう桑田佳祐はやはり根っからに童貞なのかなと。8月リリース「がらくた」収録予定。
⑬ヨシ子さん
無国籍感漂う打ち込みサウンド、無茶苦茶なようで60歳なりの現代への俯瞰した視点を感じる歌詞。日本に新しいポップスの形を提示した、まさに意欲作。適当に作られたようで、その実、めちゃくちゃ作り込まれたであろうことがよく分かる。誰にも真似出来ない、唯一無二の桑田ポップス。
⑭祭りのあと
「孤独の太陽」を経た第2期ソロワークスの集大成にして、今ではソロライブを締めくくる必殺のキラーチューン。
情けない男で御免よ
愚にもつかない俺だけど
涙を拭いて 嗚呼
夜汽車に揺れながら
「情けない男」描写は桑田佳祐の39年に渡る音楽活動の中でもとりわけ強く、何なら彼の永遠のテーマであり主題である。それは2017年の今なお続いていて、例えばサザンとしてリリースした「葡萄」における「彼氏になりたくて」や「栄光の男」、ソロなら「MUSICMAN」の「傷だらけの天使」。ああいった曲はいずれも「クソ情けねぇ、女々しさ100満点」みたいな男が主人公だ。それは恐らく桑田佳祐自身が「クソ情けねぇ、女々しさ100満点」な男だからこそ、そういう曲が生まれる。そして、僕みたいな「クソ情けねぇ、女々しさ100満点」の男たちが今並べたような曲を聴いてめっちゃ共感して泣いてしまう。そんな構図がファンと桑田佳祐の間には出来上がっている。
悪さしながら男なら 粋で優しい馬鹿でいろ
「祭りのあと」が他の楽曲と違うのは、桑田自身が僕達聞き手に「男ならこうあれよな」というメッセージを投げかけ、とりわけそのメッセージ性が余りにも強い所だろうか。この一節を座右の銘とするファンも多いのではないか。僕もまた、「粋で優しい馬鹿」で在り続けたいと願う女々しい男の1人である。
以上14曲、なるべくネット上で聞ける曲を中心に。やはり桑田佳祐のポップセンスは凄い。音楽には様々なジャンルがあるが、ポップスは一番音楽的に自由なジャンルだと思う。だからこそ難しい。サザンとしてデビューしてから39年もポップスを作り続けてきて、今なお名曲を作り続ける桑田佳祐はやはり、どうしようもなく才能に溢れているのだなと思わされる。8月にリリース予定のアルバムにも、そしてそれに伴うアルバムツアーにも、最高の期待をしているし、きっと桑田佳祐という人はそれを絶対に裏切らないと思う。とても楽しみだ。