【ネタバレ含】映画「茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~」感想 ~茅ヶ崎という街が持つ魔力とは?~
「茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~」を見てきました。
神奈川県の片田舎、茅ヶ崎。何故か茅ヶ崎には新旧問わず様々な音楽家が顔を揃えている。尾崎紀世彦、平尾昌晃、加山雄三、Suchmos、そして桑田佳祐。何故茅ヶ崎からこんなにも音楽家が輩出されるのか。芸能の街・茅ヶ崎を様々な角度から掘り下げる。
構成としては前半はドキュメント形式、後半はドラマパートと合間にドキュメント、という感じ。
まずは前半のドキュメント部分は、思っている以上にしっかりとしているというか、本当に茅ヶ崎という街についての話。烏帽子岩はいつからあの場所に生まれ、茅ケ崎という場所を見守っていたのか、茅ケ崎という地名の由来、茅ケ崎の神社にまつわる話が展開される。そこから徐々に茅ケ崎という場所と芸能の関係性に深く切り込んでいくというか。その中心に立つのは桑田の同級生、そして無類のレコードコレクター、なにより音楽好きである宮地淳一。
この映画が収録された時には茅ケ崎と芸能に関する本の制作を行っていて、それがこの映画のはじまりのキッカケになっていたりします。
そしてもう一名、「アースダイブ」などの研究を得意とする人類学者、中沢新一。
この2者が中心となって茅ケ崎という街を掘り下げていくのが序盤の展開になります。正直ココの展開は、茅ケ崎という街が好きではないとついていくのがキツイと思います。逆に茅ケ崎が好きなら相当面白い。茅ケ崎を古代から掘り下げていったり、茅ケ崎の神社の成り立ちや神紋の意味を解き明かす展開は、ミュージシャン映画とは到底思えない見かけ。日曜日の夕方とかにテレビでやってるマジモンのドキュメントと遜色無い。
少なくとも僕は茅ケ崎という街がホントに好きだし、いつか茅ケ崎に住むことも夢。だからこそこの映画も見に来たし、この展開も楽しめました。この映画がタダの「サザン誕生物語」ではないことはこの展開がなにより示している気がします。
序盤の山場はやはり加山雄三さんと宮地さんの対談。
あの年代の人たちにとって、そして茅ケ崎に住んでいた人たちにとって加山さんは永遠の若大将でありヒーローな訳で。宮地さんも対談の前は相当緊張されていました。加山雄三が語る茅ケ崎の魅力や、音楽について、桑田佳祐の出現時にどう感じたか、というものを語る加山さんは本当に茅ケ崎を愛するひとりの市民、という感じ。
Suchmosについての言及もそれなりにありました。「STAY TUNE」が流れたり、「彼らは翌日どんなに早い時間にライブがあっても東京から茅ケ崎に帰ってくる」というエピソードが宮地さんから語られたり。彼らの音楽もスゴク好きなので、これは嬉しかったな~。
加山さんの口から桑田さんについて語られた中で印象深かったのは「彼の音楽は自由だ」というところ。既存のモノに囚われず、シーンを破壊しようとしたのがデビュー時のサザン。加山さんにも同じことが言えて、そもそも当時って若い人が音楽をやる雰囲気はあまりなかったらしいんですよね。wikipediaにもシンガーソングライターの草分けと紹介されていたりします。そういう意味でも自由な感覚が加山さんにもある。そしてSuchmosも「自分たちのやりたい音楽をやる」がモットー。これ、究極の「自由さ」ですよね。現在でも現役真っ只中の3者に共通して「自由な感覚」が存在する。茅ケ崎に住む人たちの大らかな感覚が音楽活動にも影響しているのがよくわかる。
そして中盤からは「桑田佳祐の人生初ライブ」にフォーカスを当てたドラマパート。ライブのきっかけを作ったのは他でもない宮地淳一。なのでこのドラマパートにも宮地さんが出てくるのですが、その役をお馴染みアミューズから神木隆之介が。そして桑田佳祐役を野村周平が務めました。
ここまでは公開前から散々宣伝されていました。が、ドラマは2人だけでは作れません。神木君、野村君以外にも様々な人がドラマパートに出演したのですが、これが実はかなり豪華。まずは2シーンしか出番がない、学校の先生役を安田顕が!
僕本当にヤスケン好きなんですけど、今回出演することを知らなくて。出てきたとき一人で「わ~~~~~!!!!!!!!!!!!」っつってなってたんですけど。もっとそのへん宣伝すればいいのにねアミューズ。公式サイトにもなにも書かれてないし。
それ以外にも、桑田の出演するライブに出てくるフォークソングを歌う生徒役に高橋優が!
桑田バンドの出番前に出演するカリスマバンド役にモノブライトが!
アミューズの総力みたいにミュージシャンから俳優までジャンジャン出てくるの。僕が気付かなかっただけで、他にも有名な俳優さんとか出ていたのかもしれない。そういうのもこの映画の魅力。アミューズって独特な芸能事務所だから、事務所そのものが好きです!ってファンも結構いると思うんだけど、そういう人には是非見てほしい。
物語そのものも結構よかったです。桑田佳祐の初ライブである鎌倉高校でのライブを再現しつつもキチンと物語的である種"桑田的"なナンセンスも織り込まれていて、とても素敵なドラマになっていました。特に良かったのは「インプット」ばかりを繰り返していた宮地がはじめて「アウトプット」をするシーン。「インプット」と「アウトプット」の関係性だとか、大切さを考えながらこのブログを運営したりTwitterをしている僕にとっては凄くグッとくるものがありました。
そして鎌高での桑田佳祐にカットインするように、現代の、烏帽子岩に立つ桑田佳祐の映像が!!!
曲はThe Beatlesの「Money」。
烏帽子岩での歌唱は史上初めてということで、ドローンを活用した躍動感溢れる歌唱。赤いシャツに身を包んだ桑田も渋い。でも時たま野村周平の演じる「過去の桑田佳祐」の映像が今度は逆にカットバック。うーん、これはちょっと。
そして映画は再度ドキュメントへ。茅ヶ崎伝統の祭り、浜降祭に宮地、中沢の両者が。早朝から海に入り、神輿を担ぎ、甚句と呼ばれるリズムに合わせて掛け声を揃える。中沢はこれこそが桑田佳祐の音楽の原点だったのではと語りました。
そこでスタッフは、2013年に開催された「サザンオールスターズ SUMMER LIVE 2013 灼熱のマンピー!! Gスポット解禁!!」の映像を中沢に見せる。本編ラストに演奏された「マンピーのG☆SPOT」で、浜降祭のようで、でも全く浜降祭とは違う神輿が担がれた映像が流れる。中沢は「日本の祭りは大体これと似たようなことをしている」と語る。たしかに、「性」にまつわる様々な奇祭は日本の全国津々浦々で行われていますね。
「性」と聞くと途端に拒否反応を示す人もいるけれど、子孫繁栄を祈るという意味でもこういう祭りが起こるのは自然なこととも言えます。そういう意味ではサザンのライブもひとつの「祭り」であり、桑田佳祐とは「神様」なのかもしれない。そして桑田さんの音楽性とは、日本に古来からあるモノをより現代的に、海外のエッセンスも取り入れながら作られたものなのかもしれない。
...という話を宮地さんにしてみたら「アイツは浜降祭で一度も神輿を担いだことがなかった」と。桑田佳祐とは結局なんだったのか。それを解き明かすにはまだまだかかりそう。
そしてエンドロール。「MY LITTLE HOMETOWN」。映画を通して茅ヶ崎の様々な土地を見た上で聞くこの歌は格別。茅ヶ崎の匂い、波の音を思い出さずにはいられません。
エンドロールが終わっても客電はつかない。「この人からもう1曲...」というアナウンスと共に画面にはまたも烏帽子岩に立つ桑田さん。
エルビス・プレスリーの「BLUE SUEDE SHOSES」。「Money」のように他の映像がインサートされない、純度100%の桑田佳祐。近年の桑田さんは、歌謡曲志向ということもあって洋楽を歌っている姿を久々に見たましたが、やはりよく似合います。彼の邦楽も洋楽もすべてをルーツとする姿勢を改めて感じさせながら、「茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~」は幕を閉じました。
「茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~」。特に前半の「茅ヶ崎」に関するドキュメント部分は、芸能を越えてひとつの街を古代から解き明かす、素晴らしいものでした。また、後半部分のドラマパートは桑田佳祐の音楽人生の最初を追体験できる貴重なドラマでした。茅ヶ崎という街が持つ底なしの魔力を魅せられたような気持ちです。なによりも茅ヶ崎という街が改めて好きになる映画でした。
茅ヶ崎を、音楽を、サザンを愛している人には是非見てほしい映画。おススメです!
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