【過去記事再掲】今こそ!桑田佳祐 MUSICMAN 全曲レビュー
間違いなく日本音楽史に残る名盤が2011年2月23日、リリースされた。
MUSICMAN(初回生産限定 “MUSICMAN” Perfect Box)(DVD付)
- アーティスト: 桑田佳祐
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2011/02/23
- メディア: CD
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これこそがサザンオールスターズ無期限活動休止、そして自身の大病を経て辿り着いた境地なのである。
このアルバムのリリース後、事実上の3都市ツアーを経て、翌年は全国ツアー、そしてサザンオールスターズ復活。今年は、こちらもかなりの名盤なのだが、サザンとして10年ぶりのオリジナルアルバム「葡萄」がリリース。同じく10年ぶりとなる5大ドーム含む全国ツアー、8/18には22年ぶりとなる日本武道館公演。それを以って全国ツアーは終了した。
今こそ、今だからこそ、「MUSICMAN」の全曲レビューをしたい。このアルバムがあったからこそ「葡萄」は完成したのだから。
①現代人諸君!!(イマジンオールザピープル)
重く、そして軽快なギターのリフでこのアルバムはスタートする。
「労働(ワーク)」「思惑」「労苦」「党首」「摂取」「崩壊(クラッシュ)」という韻の踏み方は絶妙の一言。
やるせない世の中を/生きるはHard & Tough」だろう?! 寄辺なきこの時代(とき)を闘い抜くは君と僕
頑張れ!! 現代人 Go for the next change 明日への渡来人
という歌詞には「世の中や社会は不条理で辛いけどさ、一緒に頑張ろうぜ!!」という桑田佳祐のリスナーへの、そして元気がなくなりつつある日本という国を応援する気概みたいなものを感じる。一見すると社会風刺ソングだが、その実態は間違いなく応援ソングであり、社会を風刺している歌詞は、不条理な世間で生き抜く桑田佳祐自身を含めた国民を応援するための“前振り”としての機能という側面が大きいと感じる。
②ベガ
七夕をモチーフにしたラブソング。「淫ら」「桃源郷」「悶え」「情事」「トロけるような魔性の蜜の味」といった『桑田佳祐流、セクシーワード』が連発される。七夕がモチーフなのにこのエロティックぶり。しかし曲自体は爽やかさを覚えるくらいスッキリしている。「エロ」なんて微塵も感じないほどに。これは、単純に音が少ないからなのではないかと思っている。実際にこのアルバムで主にキーボードを担当している片山敦夫氏は、「“引き算のサウンド”だね」とライナーノーツで述べている。最後のサビ前に鳴らされるグラスを当てる音によってこの曲の主人公たちについて聞き手が考えを巡らすことが出来るのも素晴らしいポイントだと感じる。
③いいひと~Do you wanna be loved?~
サザンオールスターズ初期の名作「マチルダBABY」「ミス・ブランニュー・ディ」などを彷彿とさせる電子音のイントロ。これにシビれた人も多いのではないのだろうか。80年代以降、具体的にはアルバム「綺麗」から「KAMAKURA」にかけての時期はこうした電子音やシンセを多用した曲が目立っていたし、その後もこうした音は随所で使われていたが、まさにこの曲、そしてこの後取り上げる「銀河の星屑」はその集大成ともいえる楽曲だと思っている。
歌詞は当時の首相である鳩山由紀夫元首相を皮肉った内容。2014年末から年始にかけて勃発した「ネット右翼問題」だが、果たして散々桑田佳祐を非難していた人間たちはこの曲を聞いたのだろうか。そして震災後、宮城の地で日の丸を背に歌い上げた桑田佳祐を見ていないのだろうかとつくづく疑問になる。
沖縄、それも「神の島遥か国」「ナチカサス恋唄」「平和の流歌」とは違う視点での沖縄がモチーフである。日本に音楽は数あれど、湿度の高さが音楽で表現されているのはこの曲とサザン初期の楽曲「夏をあきらめて」の2曲だけだと思っている。爽やか夏ソング、というのは桑田自身多用してきた手法の一つだが、日本の夏と言うのは本来、ジメジメと湿度の高いものだ。それをそのまま表現している楽曲と言うのは実はかなり少ない。沖縄米軍基地も歌詞で取り上げられているが、それを批判するといった感じではなく、それも一つの沖縄の風景として取り上げられているように感じる。桑田佳祐氏もライナーノーツの中で
「沖縄の、基地の街の、とある物語。/ 私としては日米安保に対するメッセージでもないし、惚れた腫れただけの歌でもない。」
と語っている。聞き手に意味合いを委ねる事が出来る音楽は素晴らしい。
⑤古の風吹く杜
鎌倉の情景を歌う「大衆がイメージする桑田佳祐」な楽曲、といいたいところだが、今までの歌詞と違うのは表現の仕方、そして込められたメッセージであると思う。
古都を見下ろして長谷へと下る 旅路切通しよ
あてなく彷徨う想いが 私をこの地へ誘う
ざわめく木立ちに隠れた 不思議な気配に戸惑う
祭りのあとの切なさに 光と影とが寄り添う
こんなにも日本語とは綺麗なものなのかと感慨深い気持ちにさせられる。原由子のコーラスは実に桑田佳祐の声と相性が良いなと思わされる。お気に入りのフレーズは
夕日を浴びた電車の窓に 江の島が見える
⑥恋の大泥棒
金原千恵子率いるストリングスやブラス・セクションから成り立つ重厚なオーケストラサウンドとバンドサウンドの融合。とても豪華で厚みのあるサウンドに仕上がっている。歌詞は桑田佳祐の十八番でもあるお調子者のダメ男がとても上手に描かれていて、女なら誰でもいいようなナンパ男が1人の女性に本気で恋をする、共感できないようでできてしまう、なんとも不思議な歌詞。この重厚なサウンドにこういう歌詞を当て嵌め、それが意外なことに面白いほどマッチしている。
⑦銀河の星屑
「いいひと~Do you wanna be loved?~」の項でも記した通り、初期から続いてきたテクノ・ポップ路線の集大成ともいえる曲だと言える。この曲では金原千恵子のバイオリンとテクノ・ポップの正に融合。集大成であり、新機軸とも言える。
この曲に限らず、今作は桑田佳祐が元来得意としてきたものに新しい要素を追加して成り立っているものが多い気がする。
歌詞は蓮の花が似合うような死生観が生々しく記されている。
この世の果てかい!?
お釈迦さまよ Everything’s gonna be alright
哀れみの献花!?
お別れの歌!?
まだ人生には未練がいっぱい
これが病気発覚前に作られた物だというのだから驚きである。
このリリース後、「宮城ライブ~明日へのマーチ!!~」「桑田佳祐 ライブ in 神戸&横浜2011~年忘れ!! みんなで元気になろうぜ!!の会~」「桑田佳祐 LIVE TOUR 2012 I LOVE YOU-now & forever-」の全てのライブで披露されているのだが、「TOUR I LOVE YOU-now & forever-」ではアウトロに書き下ろしのパートが追加されている。
神様よ お釈迦さまよ 僕を助けて 銀河の星屑になんか なりたかねぇや
Dance the night away Dance the life away
このパートがかなりカッコいい。是非生で拝見したかったものだ。
松下奈緒主演のドラマ「CONTROL~犯罪心理捜査~」の主題歌となっていた。ドラマをちゃんと見なかったのでその世界観と一致していたのかはあまり分からない…。
2011年2月25日放送の復帰後初出演の「MUSIC STATION」で初披露となった。間奏でのシャウトとセットを動き回る桑田佳祐を見て復帰を改めて実感したことをよく覚えている。
⑧グッバイ・ワルツ
怪しさ漂う黒いワルツ。「恋の大泥棒」のような音を増やして重厚さを増すのも1つのやり方だが「ベガ」もそうだったように、「少ない音の良さ・凄み」がこの曲でも前面に出ていると思う。この曲、なんと1発録り。(ライナーノーツ参照)何度聞いてもそうは聞こえないのは単衣にサポートミュージシャンの腕だろうか。とにかく素晴らしい。
歌詞もハッとさせられるものが多い。
風に薫りて漂う春の 君と別れた夜でした
幸か不幸か愛した女(ひと)を 忘れられずに生きています
心に風穴開けて 明日の 扉叩いてみませんか
儚きは 矢の如く 季節だけが巡りくる
特にラスト前の一節が堪らない。この後にリリースされる「栄光の男」に繋がるであろう『中年の憂い』みたいなものがよく出ていると思う。
この国に生まれたら それだけで
「幸せ」と言えた日が懐かしい
川に浮かんだ月にはなれず
時代に流され参ります
シングル曲。冬の情景を描いた楽曲だが、「白い恋人達」や「クリスマス・ラブ」、「LONELY WOMAN」などとは全く違った、「人生」のモチーフみたいなものがよく出ている曲になっていると感じる。この曲に限らず「キラーストリート」以降の桑田佳祐は英語表現より日本語表現を今まで以上に大切にしていて、「葡萄」に至ってはほとんど英語詞がでてこない“異常事態”となっていた。その是非はともかく、この「MUSICMAN」は英語詞と日本語詞のバランスが絶妙だと思う。特にこの「君にサヨナラを」は「Someday(Somewhere)」「Lonely」の韻踏み程度に留まっている。
いつかは永遠の彼方へ
微笑いながら旅立ちたい
待ちぼうけ狭い舞台へ
人の世は夢芝居さ
やけに退屈な人生だけど
本当の自分に逢えるかな?
こんなうらぶれた男だけど
素敵な恋もしていたよ
やはりここでも「中年の憂い」みたいなものを綺麗な日本語で表現しているなと感じる。
「幸せ?」と聞かれて
素直に“Yes”と言いたい…言わねば!!
の一節は、この一節だけでこの曲100点!と言いたくなるような表現だ。
⑩OSAKA LADY BLUES~大阪レディ・ブルース~
ブルース曲は比較的以前から桑田佳祐は歌っている。「SEA SIDE WOMAN BLUES」はサザンの最高傑作の1つだと思っている。他にも「貧乏ブルース」「どん底のブルース」といったアコギを使ったブルースは割とありがちな手法だったが、今回はピアノブルース的な作りとなっており、ピアノを中心にギターやベースが絡む、と言った感じである。かなり新鮮さを感じる楽曲。茅ケ崎や鎌倉、横浜といった「桑田佳祐定番のご当地ソング」というほどではないが、関西圏を舞台・もしくはモチーフとした楽曲は割と作られている(「京都物語」そしてこの後発表される「イヤなことだらけの世の中で」など)。この曲もタイトル通り大阪を舞台とした楽曲で、実にディープになっている。「宮城ライブ~明日へのマーチ!!~」では「MIYAGI LADY BLUES~宮城 レディ・ブルース~」と歌詞を改め歌われた。もしもこのアルバムのツアーが開催されていたら各地方のバージョンが歌われたのだろうかと考えると実に惜しい。このアルバムの唯一にして最大の弱点は「アルバムツアーが行われなかった」ことにあると感じる。宮城・神戸・横浜の3都市だけで終わらせてしまうにはかなり勿体ない。もし次にソロ活動を再開するのならば、是非このアルバム曲を中心としたツアーを開催してから楽曲制作に取り掛かってほしいものである。
大阪では「TOUR I LOVE YOU -now & forever-」の公演で初披露となった。その際に「アニキ」こと阪神タイガースの金本氏が出演するなど大きな話題となった。羨ましい。。。
⑪EARLY IN THE MORNING ~旅立ちの朝~
2010年度「めざましテレビ」主題歌。毎日日本の朝を彩る情報番組の主題歌にこういった歌詞の楽曲をぶつけていく桑田佳祐には呆れ半分尊敬半分みたいな気持にさせられる。また、この曲で行くことを決めた「めざましテレビ」そしてフジテレビにもまた同じような気持ちになる。そもそも「朝勃ち」をテーマにした曲が世界中探してもなかなか無いのではないのだろうか。テクノ・ロック的な楽曲に仕上がっており、ライブでも盛り上がること必至。早口で捲し立てるような歌、そして間奏ではコーラスの清水美恵“師匠”のセクシーヴォイスがかなり効いている。「宮城ライブ~明日へのマーチ!!~」「年忘れ!!みんなで元気になろうぜ!!の会」の2回で演奏された。
物悲しさのあるソウル・バラード。桑田佳祐・サザンオールスターズのオリジナルアルバムの特徴として「そのアルバムで1番のバラードで〆る」というパターンはお決まりなのだが、2番手3番手くらいのバラードが実はかなり僕は好きなのである。例えば、サザンオールスターズ「Young Love」なら「ドラマで始まる恋なのに」、「さくら」なら「SEA SIDE WOMAN BLUES」、「綺麗」なら「サラ・ジェーン」、「葡萄」なら「彼氏になりたくて」といったところだろうか。勿論「1番のバラード」というのはかなり主観的なものだが、ある程度サザンファン歴が長い方ならなんとなく理解していただけると思う。このアルバムの2番手はこの「傷だらけの天使」であるのではないかと思っている。バラードとして1番ではないが好みで言えば完全に1番かなと思う。女に振られた友人の男と飲みにでかけ、横浜の港で海を眺めながら缶コーヒーでも飲みながら愚痴とも取れない愚痴を聞く…みたいな画が割と容易に浮かんでくる。決して暗くなりすぎてなく、程よい明るさがまた切なさを増幅させている。「勝つこたァないさ 負けなきゃいいんだろう!?」「ほんの小さな意地を見せなよ!」「ヘコたれてんじゃねぇ!! スガる相手はこの俺じゃなく 明日のお前さ」ここは、制作時期を見ても桑田佳祐が自身を鼓舞させるように書いた歌詞なのではないかなと思う。好きな1節は
Hello, dear friend 泣くなよ 夢破れて
13thシングル。ビートルズの魂をそのまま継承したかのような楽曲に仕上がっており、「Ob-La-Di, Ob-La-Da」を彷彿とさせるピアノとブラス・セクションによってポップでモダンな作品になっている。歌詞は男の視点から見た女性の不可解さ。この曲を女性が聞くとこの作品の中の男性が不可解なものに聞こえるのだろうか。桑田佳祐自身もライナーノーツで述べている通り、男性からした女性とは不可解で一生解くことの出来ない謎だなぁという気持ちでいっぱいである。またそこに魅力を感じてしまい、この曲の主人公のように女性にその気持ちを投げかけてしまう男性もまた、愚かで不可解な生き物だと思ってしまう。
「TOUR I LOVE YOU -now & forever-」ではovertuneに「Let It Be」が使用された。これによってよりビートルズらしさを体感できるようになっている。こういった試みができるライブはやはり演者にとっても聞き手にとっても楽しいものだ。
次の項でも触れるが、あの紅白でのパフォーマンスは一生忘れないだろうと思う。
⑭それ行けベイビー!!
2010年12月31日、大晦日。午後11時頃。来る新年に日本中の人々が想いを馳せながら、過ぎた年の思い出を振り返る。そんな日に日本国民の50%近くが見ると言われているテレビ番組「NHK 紅白歌合戦」。伝統のある音楽番組だ。そこで闘病後の桑田佳祐は復帰した。紋付き袴姿で登場した彼は、とぼけた会話を嵐のメンバーと一通り行った後、1人きりでおもむろにエレキギターを弾き出した。そこで披露されたその曲こそが、この「それ行けベイビー!!」である。今でもその姿をハッキリと鮮明に覚えている。バンド形態で楽曲を当然披露するものだと思っていたから弾き語り、しかもエレキギターという点にかなり驚いた。桑田佳祐自身もライナーノーツに記載しているが、今までも弾き語りは「どん底のブルース」「私の世紀末カルテ」等で行われてきた。しかし、それはアコギで行われていたものであり、エレキギターの弾き語りと言うのは初じゃないだろうか。そんな斬新で新しいものをここに使うのかと感心した。そして歌詞に驚いた。
我れ行く旅の途中は予期せぬことばかり
悩み多き時こそ笑いな
わが胸の奥の葛藤や身を切るような絶望も
すべてを背負いながら生きるは重たかろう!?
涙の雨はもう止んだ
鏡に映る臆病な瞳で未来を探せ
まだ世の中を悟る気になれない
命をありがとネ いろいろあるけどネ
それなのに明日も知らぬそぶりで
それ行け!! Going Going
追い風 Blowing Blowing
それ行け!!ボク!!
Wow…ファイト!!
完全に闘病を経た上での歌詞じゃないか。まさかここまで歌詞に病気が影響するものなのかとその時は思ったものだった。しかし後からよくよく詳しく話を聞くと、この歌詞は病気発覚前に書かれたものだったのだという。まるで予言者だ。「銀河の星屑」の歌詞もそうだし、「すべての歌に懺悔しな!!」や後々歌われる「ピースとハイライト」でもまた、桑田佳祐は予言者の片鱗を覗かせている。
話を紅白に戻すと、この曲のあと「本当は怖い愛とロマンス」が演奏された。「それ行けベイビー!!」こそ、歌詞や弾き語りという性質からシリアスなものになっていたが、「本当は怖い愛とロマンス」では完全におちゃらけたいつもの桑田佳祐そのものだった。兎や寅の着ぐるみと一緒に踊り、バニーガールと絡む桑田佳祐はまさに「いつも通り」の桑田佳祐であり、僕は泣いてしまった。やはりこの人は日本の宝だ、この人がいなくちゃ困るのだ...! なんて、16のガキなりに感じたものだった。
その後、この曲は「宮城ライブ~明日へのマーチ!!~」ではアンコール1曲目に歌われた。紅白の時こそ完全に桑田佳祐自身の闘病を経た上での歌だと思っていたが、この時は既に「被災地応援のための曲」に変貌を遂げていたと思う。その時その時情勢や社会の流れで曲が変化するというのもなかなか面白いなと思うし、この曲が被災地で生活する方々にとって心の支えみたいなものになったのならば、それは尊いことだと思う。
⑮狂った女
桑田佳祐の真骨頂、「何言ってるかわからない歌」である。ハードロックにジャズ・ワルツみたいなものが絡む流れはとても音楽的にゾクゾクする。ギターのリフがめちゃめちゃカッコ良いのである。こうなると歌詞は二の次、オケのカッコよさを存分に楽しむのが吉である。実際歌詞の内容は中身がこれと言ってない…気がする。ただ、
目の前で聖母マリアが自慰をした
という歌詞は割と衝撃的で、大胆なことをするなと思わされる。サザンオールスターズ「さくら」なんかに収録されていてもおかしくないようなハードロックさ加減である。まさに化け物、「狂った女」というタイトルはピッタリだ。
「傷だらけの天使」が1番好きな曲ならばこの曲は2番目だろうか。こういう切ないポップバラードみたいなものがやはり自分はどうしようもなく好きなのだなと痛感する。テーマが失恋や傷心だと尚更だ。
Hello, my loneliness and good-bye, my loveliness
とは「こんにちは、私の孤独。そしてさようなら、私の愛し」みたいな意味だと思う。英語があまり出来ないのでGoogle先生万々歳である。この曲もまた、失恋・傷心半分中年の憂い半分みたいなこの後の「栄光の男」に繋がるような歌詞になっている。
ありふれた夢やロマンに
もう二度と惑わされない
たとえ宇宙(そら)が堕ちて来ようとも
取り乱したり泣くのは止めたよ
人生は見た目通りの
退屈で野暮なドラマ
Hello, my loneliness and good-bye, my loveliness
愛しい人さえも去っていったよ
ひとりぼっちで雨に打たれて
頬をつたうモノは もう恋など出来ない
切ない。めちゃめちゃ切ない。この歌詞を桑田佳祐のあの声で歌うのだからそりゃあ切ない曲になる。でも曲の最後には
心で願うのは…
"孤独(ひとり)じゃない”と知ること
何故かな?
と〆るのもまた、憂いだけで終わらずに「やっぱり孤独はさみしい」とまとめているのも素敵。人は誰でも、孤独では生きていけないのだ。
⑰月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
1966年6月29日にThe Beatlesは初めて来日を果たし、その後3日間に渡り日本公演を東京・日本武道館にて開催した。その際、まだ幼少の桑田佳祐少年はテレビに延々と映るThe Beatlesの面々を乗せた車が夜中の首都高を走る姿を追う映像を実のお姉さんと一緒に見ていたそうだ。その際にBGMとして流れていたのが「Mr.Moonlight」であり、この曲のタイトル、そして歌詞の元ネタはその来日や「ルーフトップ・コンサート」である。
その後彼はThe Beatlesを、そして音楽を好きになり、大学でサザンオールスターズを結成し、The Beatlesが立った日本武道館の地でコンサート公演を行うまでに至った。彼がここまで日本音楽界で成功したのには紛れもなく「The Beatlesへの憧れ・リスペクト」があったからこそだと思うのだ。その体験を楽曲に刻み込んだ桑田佳祐は尊い。
ひとりぼっちの狭いベッドで
夜毎涙に濡れたのは
古いラジオからの 切ない“Yeah Yeahの歌”
今はこうして
大人同士になって失くした夢もある
時代(とき)は移ろう この日本(くに)も
変わったよ 知らぬ間に
ひとりぼっちの狭いベッドで
夜毎涙に濡れたのは
ビルの屋上の舞台(ステージ)で
巨大(おおき)な陽が 燃え尽きるのを見た
現在(いま)がどんなにやるせなくても
明日は今日より素晴らしい
月はいざよう秋の空
“月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)”Come again please.
もう一度 抱きしめたい
2011年2月25日に「MUSIC STATION」にて初披露となった際には、ピアノのみのスタジオセットに黒の背景でしめやかに歌い上げた。天井に散りばめられた小さな光が、星のように見え、それはまるで夜空の下で歌い上げるようにも見えた。歌い終わった際、同じ回に登場していたaikoにカメラがパンするとポロポロと涙を流していた。彼女と同じ気持ちになった桑田佳祐ファンは沢山いただろう。
その後、「宮城ライブ~明日へのマーチ!!~」では日章旗、日の丸を背にこの曲を熱演した。「それ行けベイビー!!」と同じようにこの曲もまた、その情勢や社会の流れで曲が変化した曲であり、日の丸を背に歌うこの曲に感動した方も少なくないのではないのだろうか。
また、「年忘れ!!みんなで元気になろうぜ!!の会」ではCDのピアノ1本で歌い上げるアレンジではなくバンド用にリアレンジされたもので演奏されたと記憶している。是非そのアレンジでまたライブで披露していただきたいものである。
これは余談だが、その後サザンとして発表したアルバム「葡萄」のツアーの最終日として日本武道館公演が開催された。その際にはビートルズの名曲「Help!」が演奏された。幸運なことに生で見る事が出来た。その瞬間、間違いなく桑田佳祐は輝いていたし「これが一番楽しかったりして」とファンとしては割と複雑なことを言ったりもしていた。The Beatlesが唯一日本でライブをした会場でビートルズナンバーを歌う。そりゃあ楽しいだろうさ(笑)
まとめ
この全曲レビューを書いてみて「MUSICMAN」という作品はやはり、桑田佳祐の最高傑作のひとつだと思わされたし、桑田佳祐の集大成だったであろうことは間違いないと思う。彼自身、この作品にはかなり自信を持っていることは間違いない。そしてこの後の作品「葡萄」の歌謡曲テイストに振り切った楽曲群は、ある程度彼がポップスに対し限界を覚えたからじゃないかと推察する。それは「ポップス」というジャンルそのものに対してはなく、「自分自身のやれる限界」という意味で。ここまでバラエティに富み、彼の想いや体験も随所に散りばめられているアルバムは今までの作品を聞き返してもそうそう無い。だが、今までのようにハードロックじゃなく「歌謡曲」に振り切ったというのはやはり「老い」みたいなもの故のことなのだろうか。
このアルバムがリリースされた当時、2月22日。本来であれば翌日がリリース日だが、フライングゲットするために僕は学校の学期末テストが終わったその足で駅前のCDショップに向かった。思えばファンになってから初めてのオリジナルアルバムの発売であり、テスト中からずっとワクワクしていたことを覚えている。初回限定版のPerfect Boxを購入した。その頃はまだ高校生で、月に7000円の小遣い制のなかで4500円は確かに痛手ではあったが、そんなことはおかまいなしにアルバムを購入したことをよく覚えている。すぐに家に帰り、CDコンポにアルバムを入れて、1曲目の「現代人諸君!!」から順に聞いていった。痛く感動したことをよく覚えている。その後3カ月くらいは、登校時に聞いていた。それだけ聞いても全く飽きないのだ。そして今でも尚、新鮮さを帯びたまま楽曲を聴くことが出来る。こんなアルバムは、少なくとも僕の今までの人生の中ではだが、全くなかった。
このアルバムの凄みは「今まで桑田佳祐が得意としてきたもの」と「今までやってこなかったもの」がとても上手に同居しているのだ。例えば、「それ行けベイビー!!」では「弾き語り」という昔からよく使っていた要素に「エレキギター」という新しい要素を足しこんで完成された物だ。「古の風吹く杜」は「鎌倉」という桑田十八番のご当地ソングに「古めかしい言葉の表現」という要素を足したものである。銀河の星屑は「テクノ」に「バイオリン」を足しこむという一見相性の悪そうな組み合わせでガッツリと成功している。
この結果が「4年経っても飽きないアルバム」への決め手だ。
何度も記す通り、その後桑田佳祐は中止した全国ツアーを改めて開催し大成功を収める。その翌年にはサザンオールスターズを再開、10年ぶりのオリジナルアルバム「葡萄」の制作・発表に至った。その片鱗をこのアルバムでは確認することが出来る。ずっと地続きなのだ。「さくら」も、「TSUNAMI」も、「キラーストリート」も、この「MUSICMAN」も、次の「葡萄」も。最初に記した通り「MUSICMAN」があったからこそ「葡萄」が出来たのだ。それを再認識できただけでもこのレビューを書いた甲斐があった気がする。
唯一、本当に唯一惜しいことがあるとすれば「このアルバムを中心としたツアーが行われなかった」ことだろう。何度も書くようだが、このアルバムはライブを念頭に行われた物だということは付属のライナーノーツを見る限り明らかである。全曲を披露したのはたったの4公演だ。これじゃあ折角「ライブを念頭に作られた楽曲」が勿体なさすぎる。あまりにも勿体ない。
何度も記すが次にソロとして活動する際には制作活動の前に全国ツアー、それもこの「MUSICMAN」を中心としたセットリストでお願いしたいものである。これじゃあ曲たちが浮かばれなさすぎる。桑田さん、期待していますよ。
このアルバムを語る際に、避けては通れないことはやはり桑田佳祐の「ふとした病」だろう。7月28日、僕はたまたまその日の部活を休み家で寝ていたのだが、たまたま開いた携帯電話のニュースサイトの「桑田佳祐 食道がん」の文字を見てかなりのショックと一つの青春が終わったかのような絶望を感じたことをよく覚えている。やはり僕にとってサザンオールスターズや桑田佳祐というのは一生の憧れであり、大好きで、大切な存在なのだということも、皮肉なことにこんな形ではあったが、改めて実感することが出来た。
前に記したとおり、年末には、しかも紅白歌合戦という大舞台で、大復活を遂げるのだが、それまでは今まで毎週のように行ってきたラジオも休養、8月2日に手術、同22日には退院。しかし表舞台への復帰はそこから4カ月と時間がそれなりにかかってしまったのだが、それでもかなり速いスピードでの復帰だった。しかしこの数カ月はファンにとって、日本音楽界にとってもかなり気が気じゃない時間だったのは言わずもがなである。本当に無事で戻って来てくれたのは嬉しかった。涙が流れるほどに。これからも転移や再発しないことを切に祈るばかりである。
10000字を超えてしまった。もう少しコンパクトに書くべきだったろうが、このアルバムは僕にとっても大切なものなので仕方ないかな。ここまで読んでくださった方には感謝をお伝えしたい。下手くそな文章、稚拙な表現だったと思うが許してほしい。
次回は「葡萄」若しくは「さくら」あたりの全曲レビューを行えたらと思うが、さていつになることやら…