サザンが描いた40年 ~サザンオールスターズが40年目の全国ツアーで表現したかったモノとは~

サザンオールスターズ LIVE TOUR 2019「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!」を観て

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2019年5月18日。福岡県博多市、福岡ヤフオク!ドーム。退場する人の波に揉まれながら、私は自分が数分前まで見ていたライブに思いを馳せていた。
サザンオールスターズのライブツアー「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!」 福岡公演1日目。その内容を、私は終わった傍からひとつひとつ思い出そうと必死に頭の中をかき回していた。

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昨年の6月に40周年というアニバーサリーイヤーを迎えたサザンのこの1年の活動は、世間のイメージする「サザン像」を魅せることが中心だった。デビュー記念日に行われたNHKホールでのライブや、夏に出演した大型音楽特番、そして13年振りの出演となったROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018に至るまで、いずれも演出・歌われた楽曲共に「サザン」というパブリックイメージ、大衆が抱いているサザン像そのものを映し出したようだった。

一方で、サザンのフロントマンである桑田佳祐Act Against AIDS活動の一環として、「平成三十年度!第三回 ひとり紅白歌合戦」を開催。これは桑田が自身の音楽的源流である昭和歌謡を中心とした「大衆音楽」をカバーする人気企画だ。このライブの本編最後に、桑田は現代の大衆音楽に対する自身の思いを吐露する。

流行歌。ヒット曲。
大衆はいつの世も、それを求めている…と私は思っていた。しかし近年は何かが違う。歌は世につれ世は歌につれ、と言うが、世はあまり歌につれなくなったのだ。

桑田佳祐「AAA 第三回 ひとり紅白歌合戦」より)

テレビの音楽番組による流行歌の浸透、CDレンタルの開始、カラオケブーム、音楽再生携帯端末の発展、音楽配信、そしてサブスクリプション。サザンが音楽シーンの第一線で歌い続ける中、音楽を取り巻く環境は劇的に変化した。その中で、リスナーである我々の視聴スタイルにも変化が訪れる。桑田が話すように、大衆は即時的な流行歌「だけ」を求めることはなくなり、世の中に蔓延するあらゆる問題が楽曲に反映されることは少なくなった。

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変化したのは音楽シーンだけではない。この40年で、この日本という国にも様々な事が起こり、その度に日本は変化した。ブーム、流行、政治、災害。年号も昭和から平成、そして令和 と2度変わった。

この40年、サザンは社会や世相、流行やシーンの変化を見つめ、それに合わせるように自身も何度と無い変化を重ねながらも、音楽シーンを牽引し続けてきた。先輩後輩を問わず、幾多ものミュージシャンと鎬を削りながら、彼らは40年間歌い続けてきたのである。

今回のツアーは、そんな彼らが見つめてきたこの日本という国、世相、大衆、そして音楽シーンの40年間を楽曲、演出を通して見事に3時間半に凝縮してみせるものだった。

ライブ2曲目「壮年JUMP」では、日本中を胸ときめかせるアイドルの姿が歌われる。この40年の芸能史を振り返れば、松田聖子から欅坂46西城秀樹からKing&Princeに至るまで、男女問わず様々なアイドル達が日本中を元気づけてきた。

誰にだって胸トキメキのアイドル アイドル
恋は波の上

「壮年JUMP」

壮年JUMP

壮年JUMP

  • provided courtesy of iTunes

サザンもデビュー当時は「明星」などの雑誌でアイドルと肩を並べ、グラビアを飾っていた。そして今も当時と同じように、音楽番組に若いアイドル達と共に出演している。サザンにとってアイドルとは、同じ芸能という土俵で闘い続ける好敵手だ。そして「壮年JUMP」はそんな好敵手への応援歌であると共に、芸能界の第一線から姿を退けたアイドル達への鎮魂歌であり、この40年間の音楽、芸能シーンの一端が歌われる。

「女神達への情歌(報道されないY系の彼方へ)」ではアダルトビデオを楽しむ男性が描かれる。AVが最初に日本で販売されたのは1981年。そして1989年、宮崎勤事件で犯人がAVを大量に所持していたという報道により、AVへの規制が行われたりもしたが、現在は新たな映像技術を活用したAVが発売されるなど、アダルトビデオという文化はこの40年の日本の芸能史実の中でも大きなトピックのひとつだ。

愛に舞う 裸の報道は
情事すべき我が身に重要で
終わりなき夜に咲く AV-girl,yeah

「女神達への情歌(報道されないY系の彼方へ)」

 ドゥーワップにブルースっぽいコード感は原曲に忠実なアレンジでありながらも、より「ライブ映え」する細部へのアレンジによってゴージャスさがグンと高まった「女神達への情歌」は本ツアーのハイライトである。

ライブ中盤、突如舞台上の大ビジョンに映し出した白黒の映像には、とあるプロレスラーの姿が映される。昭和の大スター、力道山だ。プロレスは力道山がデビューした1951年から現在に至るまで、70年近く根強い人気を誇る格闘技であり、桑田自身、愛してやまない格闘技だ。

僕は力道山 伝説のスター
最強のチャンピオン 空手チョップという猛威

「ゆけ!力道山

ゆけ!!力道山

ゆけ!!力道山

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 装飾的な音を極力排除しつつも、ここぞと言う時は豪華なホーンセクションやギターが響くグルーヴィーなファンクサウンドに乗るのは、英語と聞き紛う日本語詞。これは紛れもなく桑田佳祐による発明だ。音楽シーン、特に日本語ラップやロックシーンにおいて、もしこの発明が「勝手にシンドバッド」によって生まれなければ、今頃音楽シーンは全く違った状況になっていた筈だ。サザンが音楽シーンに与えた大きすぎる功績を感じる一幕である。

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長嶋茂雄の「我が巨人軍は永久に不滅です」という、日本人なら誰もが知っているであろう有名なフレーズの引退スピーチ映像から始まるのは「栄光の男」。

ハンカチを振り振り あの人が引退(さ)るのを
立ち食いそば屋の テレビが映してた

「栄光の男」

 長嶋茂雄の引退という大事件と、それをリアルタイムで経験した桑田の視点の両方がオーバーラップして生まれたこの曲だが、今回のツアーでは演奏の途中から長嶋茂雄の映像からマリナーズイチローの映像へと切り替わる。このツアーが始まる直前、3月21日に現役引退が発表されたイチロー、「歴史は繰り返す」とはまさにその通りで、当時桑田佳祐長嶋茂雄を見ていた時に抱いた「一時代の終わり」という感覚を、私は今回のツアーによって40数年の時を超え今、サザンの楽曲を通してイチローに感じでいた。

他にも、ディスコチューンな「シュラバ★ラ★バンバ」ではジュリ扇ボディコンのダンサーが現れ、会場は90年代にディスコブームを起こしたジュリアナ東京へと姿を変える。「闘う戦士たちへ愛を込めて」では現代社会の抱える巨大な問題である「ブラック企業」をシニカルに風刺する。他にも様々、本ツアーの至る所にこの国の40年の歴史が垣間見え、観客の私たちは「サザンの楽曲」を通してその時代の風を感じる。ここまで挙げてきたどの曲も、サザンがこの40年間批評的に、それも大仰な視点ではなくひとりの国民としての批評性で社会を見つめてきたからこそ生まれた楽曲だ。だからこそ、私たちもひとりの国民として、彼らの楽曲を通してその時代を感じるのである。

この40年で変化を繰り返したのは社会だけではない。音楽シーンも変化を繰り返し、その重ね合わせで今がある。サザンはそのシーンの変化を見つめ、シーンを見つめ、歌い続けた。その結果、気付けばサザンの歴史はそのまま日本大衆音楽の歴史と言える程重厚なモノになった。

今回のツアーで我々は、そんな音楽シーンの変化の一端をサザンの楽曲によって体感する。「ミス・ブランニュー・デイ」に見る80年代のテクノブーム、「SAUDADE~真冬の蜃気楼~」のボサノヴァ、ハードロック全開な「CRY 哀 CRY」、カントリー調の「わすれじのレイド・バック」。どれもこの40年間の日本音楽シーンに欠かせないジャンルが内包された楽曲だ。サザンがシーンの第一線で大衆音楽を鳴らし続けることが出来る訳は、40年間に及ぶ大衆音楽の変遷を自らの楽曲のみで振り返ってしまうその音楽的な懐の大きさにあるのだと改めて感じられたライブだった。

CRY 哀 CRY

CRY 哀 CRY

  • provided courtesy of iTunes

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今回のツアーで歌われたのは「この40年間」という「過去」だけではない。過去を踏まえ、その先の豊かな光の溢れる「未来への第1歩」を、彼らは既に見据えている。本ツアーで最も「未来」を感じたのは他でもない、ライブが始まるその1曲目だ。

開演時間を少しすぎた頃、場内が暗転。舞台に張られた紗幕にサザンがデビューした年である「1978」から現在に至る「2018」までの数字が、カウントアップしていくかのように様々な字体で飛び交う。そして「2019」を超えた時、紗幕にはサザンの5人が拳を掲げるシルエットが浮かび上がり、コーラスが印象的な「東京VICTORY」が始まる。

東京VICTORY

東京VICTORY

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 「東京VICTORY」は東京五輪、つまり「2019」の先にある「2020」を意識して作られたものだ。「未来」は「過去」や「今」が無ければ生まれない。私たちは常に先人達が歩んできた轍から未来への新たな一歩を踏み出している。「東京VICTORY」で始まるこの構成に、私はそんなことを感じて止まなかった。

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アニバーサリーイヤーの最後を飾るツアーであれば、沢山のヒット曲をふんだんに取り入れたメモリアルなライブによって「サザン的お祭り感」を演出することは彼らにとって容易な事だったはずだ。しかし彼らは自身の歴史ではなく、自身の「ヒット曲」ではない曲たちを中心に据えた構成で日本の40年、そして大衆音楽史を描き、さらにはその先にある希望を描くライブを成しえた。そこにはあまり歌につれなくなった世へ、2019年ならではの「大衆音楽」を伝えたいという、今を生きる大衆音楽の歌い手としての覚悟があったのではないだろうか。僕はそのあまりにも大きすぎる覚悟に、尊敬と畏怖の念を覚えてしまう。

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歌は世につれ世は歌につれ。そんな大衆音楽が歩んできた道のりを再確認するようなライブだった。これからもサザンオールスターズは、音楽シーンの第一線で「日本の今」を「未来」へと遺していくために歩み続けるだろう。そして私は、彼らが遺した轍からまた一歩、歩み出すはずだ。