ONE OK ROCK「Eye of the storm」は本当にワンオクらしくないのだろうか

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2月にリリースされたONE OK ROCK「Eye of the storm」。

散々各所で指摘されてる通り、今までのワンオクを思えばこのアルバムはあまりにも異色を放つ1枚だ。エモでも無きゃラウドでも無い、打ち込みによるデジタルで軽やかな音色。それは今までのワンオクが好きでライブに足繁く通っていたファンにしてみたら、面食らってしまうものだっただろう。事実、本作のamazonページのレビューは半ば炎上状態に陥っていた。一方で、一部の有識者やいわゆる「音楽好き」な人達は今作を高く評価してる(ように思う)。つまりONE OK ROCKというバンドのファンは本作に否定的だが、音楽を広く愛してるような人達は本作に肯定的、という構造が出来上がっているのだ。勿論、元来からのワンオクファンでも本作を評価してる人もいれば、音楽ファンでも本作を低く評価している人もいるのだろうが、僕の実感ではそういう人は割と少数派だったように見えた。

全部同じに聞こえる?

本作のamazonレビューを見てみると、「全て同じに聞こえる」という文言があった。なるほど確かに全編に渡って打ち込みのサウンドが鳴る本作が全曲似たように聞こえる、と思うのは無理もない気がする。

しかし今までのワンオクのアルバムを思い返すと、どのアルバムも大なり小なり「全部同じに聞こえる」構造だったのでは?と思うのである。

例えば前作「Ambitions」なら、本作への萌芽を感じるデジタルと、それまでのワンオクの持ち味だったエモ、ラウドロックが融合したサウンドが割と全編にわたって鳴っていたように思うし、そのさらに前の「35XXXV」は、スタジアム・ロックなスケールの大きなロックサウンドが全編に渡って鳴っていた。

幕の内アルバムとそうじゃないアルバム

僕が勝手に使っている言葉で「幕の内アルバム」という言葉がある。1枚の中で様々な音楽性の曲が並ぶようなアルバムの事をそう呼んでいる。例えば僕が人生で聞いてきたアルバムの中でも最高傑作のひとつである桑田佳祐MUSICMAN」は、まさしく似たような楽曲が1つ足りとも存在しない、「これぞ幕の内」な1枚だったし、最近で言えば先日レビューを書いたRADWIMPS「ANTI ANTI GENERATION」もそういうアルバムだったと思う。

fujimon-sas.hatenadiary.jp

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ONE OK ROCKのアルバムは、今までで1度たりとも、そしてそれは本作も、そういう作り方のものは無かった。

人生×僕=」も「残響リファレンス」も「Nicheシンドローム」も。それぞれのアルバムに核となるコンセプト・音楽性があり、ひとつのアルバムの中で様々な音楽性が混在してるようなアルバムって実はそんなに無かったのでは、と思うのである。

つまり、今作「Eye of the storm」だけが「全て同じに聞こえる」訳ではなく、元々ONE OK ROCKってそういうアルバムの作り方をするバンドなのだ。アルバム毎にひとつのコンセプトに忠実に全ての曲を紡ぐ、ONE OK ROCKはそういうバンドなのではないか、と本作の「半炎上状態」を見て思わされたのだ。

誤解を恐れずに言えば、僕は「幕の内」なアルバムの方が好みだ。1枚のアルバムの中でいろんな音楽性を楽しめる方が面白いと思ってしまう。だから前述した通り「MUSICMAN」は生涯でもトップクラスに好きなアルバムになったし、「ANTIANTI GENERATION」を評価したのだ。ただ、だからといって今回のワンオクのアルバムが好きじゃないのか、と聞かれたら、むしろ僕としては今までで1番聞きやすくて何周もしてしまいそうになるアルバムだった。今までは激しさと勢いが彼らの曲を引っ張ってきた部分があったが、グッと抑え込まれた曲調によってボーカルTakaが持つハリのある声がより耳に馴染む。歌詞も基本的に英詞だが、ここぞというときに出てくる日本語に聞くたびにハッとされる。

変化と戦略、そして期待

既知の通り、ONE OK ROCKは海外を中心とした活動形態にシフトしている。その中で、海外志向の音楽性にシフトしていくのは自然なことだろう。既に海外では「ロック」は廃れつつある。そんな中で彼らがロックサウンドから一旦距離を置き、打ち込みに傾倒していくことは紛れもない「良い戦略」だ。ただ、「ファン」という顧客を前にしたひとつのビジネスとして、もしくは彼らが本当にやりたい音楽をやっているのか、という点においてこの変化は果たして(敢えてこの言葉を使うが)"正しかった"のかは誰も分からない。その結果は、きっとこれから先彼らの活動が示すことだろう。今はただ、僕達聞き手はその「示される日」を待つだけだ。

同時に、例えば今後のワンオクが初期のストレートなサウンドも、ラウドな曲も、ロックと打ち込みが融合した曲も、今作のような軽やかな打ち込みに舵を振り切った曲も渾然一体になったまさに「幕の内」なアルバムを作ったら、いよいよ僕は虜になってしまうだろう。そういう期待を僕としてはせずには居られない。彼らの作品に、心から酔いしれる日がやってくる期待を込めて、この記事を終わる。