#ベストソング2018上半期編 ~2018年上半期に良かった音楽たち~
毎年恒例「#ベストソング」シリーズ。
今回は2018年の上半期編として、2018年6月20日現在でYouTubeでなんらかの形で視聴可能かつ、CD、iTunes等で音源の購入可能な楽曲から20曲をチョイス。画像をクリックまたはタップするとYouTubeで視聴することができます。早速参りましょう。
⑳「偽りのシンパシー ft アイナ・ジ・エンド(BiSH)」MONDO GROSSO
昨年は「ラビリンス」という後世に残るであろう名曲をリリースしたMONDO GROSSO。今回はゲストボーカルにBiSHのアイナ・ジ・エンドを迎え、彼女のハスキーで憂いを帯びた歌声にぴったりな1曲が生まれた。イントロからサビまでは音数も少ないシンプルな構造で進むのに、サビになるとテンポが変わり、途端にダンスミュージックの様相に。歌詞も「愛」に潜む、本当ならば真逆の感情なのに、「愛」には欠かせない「憎しみの感情」、そして「愛の本質」を描いている。愛というPVのアイナ・ジ・エンドの妖艶なダンスにもドキドキしてしまう。
⑲「ハルの言う通り」indigo la End
よりマニアックなサウンドに進化を続けているindigo la End。配信限定リリースとなった今作は、キャッチーというよりは一聴すると地味な印象も受けるが、indigoならではのテクニカルな演奏が思わず癖になる。初期のシンプルなロックサウンドと比べるとその違いは歴然。日々ステップアップを遂げる彼らの音楽性には聞くたびに惹かれてしまう魔力がある。失恋の喪失感を描いた歌詞はindigo la End最大の魅力にして持ち味。その切なさは益々鋭さを増していく。 7月リリースのアルバムにも最大級の期待を。
衝撃的な歌詞と、タイトルの通りアルペジオが印象的な小沢健二の新曲。彼の内面世界を歌っているのに、どうしてこうも人々の心に刺さるのだろうか。希望を感じるようなサウンドなのに、歌詞はどこか「諦め」や「居直り」のようなものも感じる、実に人間らしい作風。この曲は語るだけ野暮というか、この詩から何を感じ取るかは本当に人それぞれだと思う。
⑰「ウララ」ビッケブランカ
新進気鋭のシンガーソングライター、ビッケブランカの1stシングル。ピアノが基調になったどこまでも軽快でキャッチーなダンスナンバー。だが、歌詞のテーマは「別れ」であり「忘れること」である。その一見すると相反する歌詞と曲だが、「別れ」は同時に新たな季節の訪れを意味する。新たなる季節を迎えるための別れには希望も込もっている、そんなことを思い出させてくれる心からの「春うた」。
RADWIMPSというロックバンドは様々な音楽性の上に動いているバンドである。「前前前世」や「スパークル」のような「君の名は。」で見せたポップ性が高いだけのバンドではない。「ふたりごと」「いいんですか?」或いは近年の「AADAAKOUDAA」「洗脳」のようなラップ調の、ヒップホップの文脈も彼らの大きな持ち味だ。そしてそういった彼らの音楽性が今まで以上にいかんなく発揮されたのがこの「カタルシスト」と言える。Aメロ、Bメロはラップ調でサウンドも全体的に打ち込みやエフェクトを多用しているのに、サビになると一転して壮大さを感じるサウンドに変わり、野田洋次郎の歌声もそれまでよりも伸びやかに変化する。そしてCメロではそれまでには無かった疾走感までもを感じる曲調に一気に変化する。同じ1曲なのに、様変わりするサウンド。この緩急に引き込まれる。要素がてんこ盛りなのに、サラッと聞けてしまう。のに最終的になにか心に1発残して去っていく。そんな1曲。
「カタルシスト」の話を折角したので余談的に。RADWIMPSのこの数か月の騒動、「カタルシスト」は曲よりもそのカップリングである「HINOMARU」が結果的に話題になってしまった。「HINOMARU」を正直僕はあまり良い曲とは思えなかったし、あの曲に関する洋次郎のコメントも納得できなかったけど、あの曲を右左翼両方の人たちが自分たちの政治主張に利用しているのはもっと納得できなかったし、ましてやデモをする、ということも、それに対して反対している右の人たちが自分たちが過去にしたことを全く顧みていないことも、すべてがくだらないな、と思う。音楽は自由であるべきだし、それに対する批評もまた自由でいい。その自由を破壊するような人を僕は許さない。
RADWIMPSの騒動に対して右寄りの人が「表現の自由が云々」なんて話をしてるけど、俺はお前らが3年前にサザンオールスターズに対して行った事は忘れねぇからな。
— ふじもと (@fujimon_music) 2018年6月12日
髪形どうしちゃったん菅田くん。。。
シンガーソングライター石崎ひゅーいが作詞作曲を手掛けた1曲。菅田将暉の音楽活動の多くは著名なミュージシャンからの楽曲提供によるもの(今年リリースされたアルバム「PLAY」には黒猫チェルシーや忘れらんねぇよ、amazarashi、米津玄師などが参加している)だが、菅田将暉の歌はその作者の歌い方や癖、雰囲気の再現度が高い。それをオリジナリティが無い、と批判する人もいるだろうが、僕はなんとも彼らしいなと思わされる。そもそも菅田将暉の立脚点は俳優で、演じることが仕事だ。そういう意味で彼の音楽活動もまた、演じるということがひとつのテーマになっているのではないかとも推察できる。その上で彼の歌声という他の誰も持って無いモノが彼の音楽活動の魅力に繋がっているのだ。全編に渡ってアコギ、そしてエレキの2本のギターサウンドが心地よく鳴り続ける。「別れ」がテーマの名曲がこうしてまた新しく生まれたことがなにより嬉しい。「別れ」をテーマにした曲は世の中に山のようにあるけれど、その様々な曲たちに心を掴まれるのは僕たち人間が「別れ」から逃れられないから。
⑭「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」ヤバイTシャツ屋さん
バンド名も曲タイトルも長すぎるだろ。
アルバムリリースやボーカルこやまの左声帯嚢胞の手術、まさか過ぎるNHKとのコラボレーションまで飛び出した2018年上半期のヤバT。本筋の話からはそれてしまうが、NHKとのコラボ曲として公開された「案外わるないNHK」、今年の紅白歌合戦の1曲目に相応しい曲は他にない。紛れもないNHK賛歌。ここまで来たらNHKはW杯のテーマソングやってるSuchmosと一緒にヤバTも出してほしい。というか出してくださいNHKさん。
「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」、一聴するとヤバT恒例の中身無しソングか、なんて思う人もいるかもしれない。実はその点をボーカルのこやまは悩んでいて、その末に作られたのが「ヤバみ」そしてこの「鬼POP...」であることがナタリーのインタビューで語られている。
歌詞を読むと、現在の音楽シーン、彼らの音楽だけではなく、音楽業界そのものを取り巻く状況について割と直接的に書かれている。
歌詞ちゃんと読んでくれてるのなんて 君くらいだよ thank you
無料サイト 動画サイト 違法サイトで音楽垂れ流し
もうCDに価値はないんか もはやバンドはTシャツ屋さん
伝えられへん方が悪いんか 聴き流すのが悪いんか
以前記事にもしたが、今なお違法な音楽アプリが淘汰されることはない。どころか、(ナタリーのインタビューでこやまも語っているが)喜々としてそういったアプリで聞いている旨を作り手であるミュージシャンにSNSを通して送り付けることをするようなファンとも呼びたくないような「犯罪者」が後を絶たない。少しでもこの曲のこの一節が広まれば、こうしてミュージシャンが曲にしてまで叫んでいることが伝われば、もっと日本の音楽を取り巻く環境は良いモノになるだろう。その役目をヤバTが担ったことの意外性にクスリとしつつも、なるほどと思わされる。こういうこと、サカナクション山口あたりがやりそうなことだけど、曲にして、それもこんなにストレートな言葉を使って歌えるのは今の音楽シーンの中じゃヤバTだけだろう。
⑬「808」Suchmos
横浜アリーナ2daysも決定し、しかもそのキャパですらチケット取れんのかなって不安になるくらい飛ぶ鳥を落とす勢いのSuchmos。他のシティポップ勢と比べた時のSuchmosの特徴って、その「都会性」の高さだと思っていて。やっぱり垢抜けかたが段違いだなぁ、と新曲を聞くたびに思わされる。東京に生まれたわけでもないけれど、「上京する」って程の距離でもない、そんな土地で生まれ育った彼らだからこそ、こういう聞き味の曲を作れるのかな、と思ったり。東京への憧れと、でも行こうと思えばすんなり出ることも出来るし、逆に東京に対して批評的な視点も持ってるし(そこから生まれたのが「STAY TUNE」だと思う)地元が嫌いなわけでもなくて、寧ろ好き。この「地元」と「東京」のバランス感、憑かず離れずな感じが結果としてこの「都会性の高さ」に繋がっているのではないかと思う。「808」もまた、そんな彼らの魅力がギッシリ詰まった1曲。やっぱり彼らの曲はドライブに映える。
⑫「満月の夜なら」あいみょん
セックスと音楽、というのは切っても切れない関係だし、セックスをテーマにした曲というのはまあ正直割と世の中に存在する。例えば忌野清志郎の「雨上がりの夜空に」なんかはまさしくセックスがテーマの曲の代表例みたいな存在。あとはクリープハイプの「HE IS MINE」もそういう曲だろう。でも時代の移り変わりの中で、そんな曲も少なくなったように思っていた。そんな中であいみょんのリリースしたこの曲、完璧にセックスがテーマである。歌詞のどこを切り取ってもセックス。MVはやけにスタイリッシュな映像に仕上がってるけど、曲のテーマとはもう全然関係ない。チャリンコ漕いでる場合じゃない。新進気鋭の女性SSWが、こんなにも赤裸々な曲を書いてしまう驚きと、それがあいみょんというところに納得するふたりの自分がいる。
星野源がドラえもんの映画の主題歌を務める、と聞いた時、なるほどいよいよ彼も今まで以上に国民的な存在に達するんだなという納得と、「恋」のようなポップスが来るんだろう、とどこかで勝手に思っていた節があった。いざ蓋を開けばその曲は、ここ数年の彼の曲の中でも1番「音楽の変態」な曲だった。「ドラえもん」の主題歌に「ドラえもん」という名前を付けてしまったり「あったまてっかて~か...」のあのメロディを間奏に据えてしまう、居直りにも近い奇抜さにも驚いたが、イントロの音数の少なさ、左チャンネルで鳴り続けるギターの低音さ加減、メロディに対する歌詞の乗せ方に至るまで、普通のポップスでもなければ「映画 ドラえもん」の主題歌とは到底思えないような要素ばかり。でも最終的な着地はしっかりと、そしてどこまでもポップでキャッチー。矛盾しているようだけど、事実そういう曲に仕上がっているのだから面白い。星野源はパラドックスさえも作る出せる存在なのか...「ドラえもん」だけでなくNHK朝ドラの主題歌まで手掛けて、国民的とまで評されて、ガッキーの恋人役やって、声優やって、しかも嫌味が無い。なんだこいつ。前世でなにしたらこうなれるんだ。逆に俺の前世なんだったんだ。
⑩「ain't on the map yet」Nulbarich
どうしても比較してしまうのだけど、Suchmosの魅力が「都会性の高さ」なら、Nulbarichは「オーガニックさ」「自然由来な感覚」が魅力である。勿論彼らの音楽を形容するならば「シティポップ」と言うだろうけど、彼らの音楽は都会の中の緑が沢山の公園のようで。ボーカルのJQの歌声は包み込むようなすがすがしさを持っているし、サウンドも複雑なのにシンプルに聞かせてしまうような作り。聴いているだけで思わず横に揺れてしまう、森の中でゆったりと身を風に委ねて、太陽の光をめいっぱい浴びているような気持ちになる。
MV、KREVAの「イッサイガッサイ」を彷彿とさせるような教師と生徒の恋愛を描いていて大好き。こういうMV増えてほしい。俺の性癖の話やめろ。
⑨「Play A Love Song」宇多田ヒカル
大傑作「Fantôme」から2年。宇多田ヒカルがニューアルバムにつけた名前は「初恋」。デビューアルバム「First Love」を彷彿とさせるアルバムの通り、今の宇多田ヒカルは原点回帰のターンなのだと思う。前作は「死」がテーマだったこともあり、かなり重い内容になっていた。一転して「初恋」、とりわけこの「Play a Love Song」は歌詞もサウンドもメロディも、すべてが軽やか。
悲しい話はもうたくさん
飯食って笑って寝よう
Can you play a love song?
この曲はこの一節にすべてが込められているなぁ、と聞くたびに思わされる。ポジティヴだし、そのポジティヴさは誰も傷つけない類のモノなのが宇多田ヒカルらしいなと。「Fantôme」を制作したことで母親の死を昇華した宇多田ヒカル。彼女には今年の7月に3歳を迎える子供がいる。
アルバムとツアーの詳細が発表されて新曲が出て初プロデュースしたアーティストのデビューも順調でみんなからの反応もあって嬉しいしもっとフォローしたいんだけど、息子の初めてのトイレでおしっこ成功に歓喜・感動したりオムツ履いてない状態のうんちに慌てたりでわりとそれどころではない
今回のアルバム、そしてツアー発表の際のツイート。「Fantôme」以降の宇多田ヒカルの生活は子育てがメインだったのではないかと推察される。その中で「生」ということ、あるいは「生命」を彼女自身感じたところもあったのだろう。今回のこのポジティヴな作風はこういう部分も少なからず起因しているのではないだろうか。
⑧「たったさっきから3000年までの話」チャットモンチー
チャットモンチーが「完結」を発表した時、正直理解が出来なかった。「やり切った」と言われても、イマイチ僕の中では納得できなかった。
ラストアルバム「誕生」を聞いた時、「ああ、これはやり切っているわ」と素直に思うことができた。デビューからドラムの久美子が脱退するまでの3ピースでのチャットモンチーを思うと、本当に別のバンドのような音楽性になっていた。例えばこのアルバムを7、8年前の自分に「チャットモンチーの新譜だよ」と言って聞かせても、きっと信じてもらえないだろう。それはつまり、3人時代のアルバムと「誕生」にはそれくらいの変化があったということだ。その変化の間には、2人7で使用する楽器を入れ替えて演奏する「変身」時代、「男陣」「乙女団」と様々なサポートミュージシャンを迎えた「共鳴」時代、そしてその後の新展開として打ち込みを利用した「チャットモンチーメカ」。様々な試行錯誤という「新しい景色」を、久美子脱退以降のチャットはファンに魅せ続けてきたのだ。そして、メカ仕様のツアーで言葉通り「やりきった」。だから完結の道を彼女たちは選んだ。なにもブレていない。そして「チャットモンチーメカ」の音楽性が爆発したのが、この「誕生」であり「たったさっきから3000年までの話」なのだ。
そもそも、ラストアルバムを作るとなったとき、大概のミュージシャンはそのキャリアの集大成を魅せようとするだろう。チャットモンチーならそれこそ今までの様々な編成を詰め込んでも良い、なんなら久美子に数曲ドラムを叩いてもらったって良かっただろう。そういう選択肢だって彼女達にはあったはずだ。でもチャットはそういう道を選ばなかった。あくまでも今の、最新で最高なチャットモンチーを100%魅せている。魅せきっている。「やり切った」。その言葉に嘘偽りは全く無いな、と聞く度に思わされる。
「たったさっきから3000年までの話」もまた、最新モードのチャットモンチーの色が濃く出ている1曲だ。
あいも変わらず地震大国で
揺れているでしょうか
この一節を読んで「政治的」と判断する人もいるだろうが、それは少しお門違いだと僕は考える。これは「日本人の日常」を描いているだけなのだ。思えば僕が物心ついたころから、つい先日の米朝首脳会談に至るまで、この国の史実の節々に北朝鮮とアメリカと日本の三者の話題があった。そんなニュースを幾度となく見てきた僕たち日常の中には、当たり前のように北朝鮮とアメリカが存在する。そんな「日常」と「未来」をラストアルバムのリード曲にぶつけてくるチャットモンチーは、本当に真っすぐな人たちなのだと痛感させられる。
サビは「ウォウウォウ」「ラララ」と歌詞が無い。ここにどんな言葉を当てはめるかは、聞き手一人一人に委ねられているということではないだろうか。あなたならこの曲のサビに、どんな歌詞を乗せるだろう?
⑦「カメレオン・レンズ」ポルノグラフィティ
僕の音楽人生の原点には間違いなくポルノグラフィティの音楽があって、でも近年はすっかり離れてしまっていた。なんとなく新曲は追ってみるものの、毎回どうもピンと来ない。そんな僕がまさかまたポルノの新曲にここまで心奪われる日がやってくるとは正直夢にも思っていなかった。洋楽のテイストを取り込みつつも、昭仁の声が流れ込むと途端にポルノグラフィティの音楽、ポルノグラフィティの楽曲になるところに思わず舌を巻いてしまう。Bメロのピアノリフの美麗さ。
変化するから人は美しい。この曲もまた、今までのポルノグラフィティとの変化も踏まえて聞くとより一層グッと来る。
⑥「Lemon」米津玄師
最早彼の存在を無視しながら現在の日本音楽シーンを語ることは不可能というところまで売れた米津玄師。「Lemon」はドラマ「アンナチュラル」の主題歌。このドラマも充分話題になっていた印象なのだが、それ以上にこの曲の勢いはすさまじかった。
「Lemon」のテーマはずばり「死」である。どんな人にも平等に訪れる「死」。それは自らが愛していた「あなた」にも訪れる。
あれから思うように 息ができない
あんなに側にいたのに まるで嘘みたい
とても忘れられない それだけは確か
僕は家族や恋人、友人など、心から愛する人を亡くす、という経験をしたことが無い。それでも、もしそうなったとき自分がどういう感情になるのかをなんとなく想像することは出来る。けれど本当に愛する人を亡くした時、その想像を容易く超えるような虚無感や哀しみが僕の心を覆うのだろう。息ができなくなるほど、それまでの日々が無かったように思えるほどの暗い感情。でも、愛する人がそこに居たこともまた真実で。そんな「愛する人を亡くした時」の感情の機微をこんなに簡潔に、しかしどこまでもストレートに描かれると思わず胸が締め付けられる。
ピアノの音を中心に進んでいくサウンドの中に、一定の間隔で入り込む「ウエッ」という声ともなにかの楽器音とも分からない音の違和感が、この曲をより引き立てている。単なるバラード、例えばピアノの旋律だけで展開するとこの曲はあまりにも重たすぎる。重たいテーマを背負いながらも、その重さを直接的に表現しないあたりの米津玄師のポップセンスに脱帽してしまう。思えば昨年のJ-POPど真ん中な名曲「打上花火」の作詞作曲編曲は他でもない米津玄師だった。東京五輪まで、そしてその先の2020年代の日本音楽市場を席捲するのは他でもない彼なのかもしれない。
⑤「ノーダウト」Official髭男dism
2018年上半期No.1ブレイクバンド、Official髭男dism。ダンスミュージックやブラックミュージックの手法を取り入れつつ、しっかりとJ-POPも踏襲する。星野源などの作風にも近いようで、ちゃんと彼ららしさがどの曲にもあるのが彼らの魅力。
「ノーダウト」はラテン調でヒリヒリした緊張感を持っているようで、シリアス全開というわけでもなく、しっかりポップスとしても成立しているのがとても良い。このあたりのバランス感覚はサザン桑田佳祐にも通じるような気がする。
彼らしかり、sumikaやSuchmosなど、この数年でブレイクするバンドにはロック的なセンス以上にポップセンスが光るバンドが数多い。特に10年代の前半はシンプルな編成の王道なロックサウンドを鳴らすバンドが数多くブレイクしたこともあり、その反動が今ここに来ているのだろうか。こういう考察をしていくのも音楽の面白いところ。
④「フィクション」sumika
アニメ「ヲタクに恋は難しい」オープニングテーマ。バンドサウンドなのにどこまでもキャッチー。星野源の音楽性を彷彿とさせるのは曲のアレンジ以上にボーカル片岡の声によるものだろうか。ピアノの跳ね方、ストリングスを大胆に取り入れたアレンジ、テンポ感。どこを取ってもポップの極み。
歌詞のテーマはまさしく「人生」。人生を本に例え、起承転結楽ありゃ苦もある。そんな人生を明るくポップに描く。「人生」は「日常」とも言い変えることが出来るだろう。ボーカルの片岡はナタリーのインタビューで、タイアップ先の「ヲタ恋」を「半径2m以内にあるような日常の幸せを描いている」と話していて、それはOPテーマのこの曲にも言えることだ。
natalie.mu
劇的な、まさしくドラマチックな日々にも憧れるけど、大半の僕ら“普通”の人たちは”普通”の日常で”普通”の幸せを探しながら”普通”の悩みを抱きながら生きている。そんな「普通」に時々悩んだりすることもあるけど、日常が素晴らしいと思えることが何より幸せなのではないかな、と「フィクション」を聞いて思わされる。
③「Ref:rain」Aimer
アニメ「恋は雨上がりのように」エンディングテーマ。雨をテーマに恋心を描く。メロディも歌詞も切なさの爆発。具体的なメッセ―ジがあるわけでも、物凄いパンチラインがあるわけでもないが、この曲を覆う雨雲のような曇りが買ったような独特の雰囲気は唯一無二。その雰囲気に思わず引き込まれてしまう。心象風景として、今までの人生で何千回と見てきた雨と、その時々に恋していた気持ちがこの曲を聴くだけでフラッシュバックするよう。
なにも手につかずに 上の空の日々
サラッ、とこんなキラッキラなことを歌ってしまうのが良い。恋をしているあるあるの中でも一番あるあるだろう。こうなってこその恋心。その人のことばかりを考えてしまう。このフレーズだけでこの歌は100点だ。
②「ミューズ」吉澤嘉代子
昔から応援ソング、というジャンルがあまり好きではなかった。「頑張れ」とか、「応援してるよ」とか、結局本質的には他人事じゃねぇか、と思ってしまうから。
4月から社会人として働くようになって、キツイ日々が続いていて、そんな中でリリースされた、ずっと心待ちにしていた吉澤嘉代子の新曲のサビではこんな一節が歌われていた。
戦っている貴方はうつくしい
この曲のMVが解禁されたのは5月24日の昼12時で、その日の僕はいつもの通り午前中の業務を終えた所で、昼飯後の休憩中にMVを見て、この一節で始まるこの曲を聴いて、不覚にも泣きそうになってしまった。自分は戦っているんだ、なんて胸を張れるほど驕っているつもりもないが、自分なりに頑張っているつもりではあって、でも結果は出ないし、そもそも求められているモノのハードルが高すぎるのか、とにかくまあしんどい日々は確実に続いていて、そんな中で聞くこの一節に、僕が胸を締め付けられるような思いになったのは必然だった。「頑張れ」でも「応援している」でもない、「貴方はうつくしい」という紛うことなき、真っすぐな肯定。それだけでどれだけ救われる人がいたのだろうか、いるのだろうか。他でもない吉澤嘉代子自身が戦い続けた人生だからこそ、純度120%の真っすぐ過ぎる言葉で戦っているすべての人を「うつくしい」と肯定できるのだ。
蔦谷好位置が編曲として参加していることで、今までの吉澤嘉代子の持ち味のひとつだった80年代歌謡曲風のアレンジ(「綺麗」「手品」「うそつき」あたりはまさにその好例)というよりこの曲はJ-POPど真ん中な聞き味。イントロのフェードインのなんと力強いことか。「月曜日戦争」「残ってる」そしてこの「ミューズ」と、日本ポップス史に残り続けてもおかしくないような名曲を惜しむことなく連発する吉澤嘉代子、まさに今が旬。秋にリリースされることが発表されたニューアルバムにはこの3曲が恐らく収録されることだろう。そして来年の初頭の開催が発表されているツアーでは彼女の清らかな歌声がツアー各地で響き渡る筈だ。最大級の期待をしながらアルバムのリリースを待ちたい。
①「戦う戦士(もの)たちに愛を込めて」サザンオールスターズ
サザンオールスターズは今年で40周年を迎える。やはりサザンと言えば「夏」「海」「テンションが上がる」「エロス」などの単語が(良くも悪くも)連想されるし、周年の曲と言えばそれなりにそこに寄り添っていくような曲を持ってきていた。25周年の時の「涙の海で抱かれたい ~SEA OF LOVE~」なんかはまさしくそのど真ん中だったし、30周年の時の「I AM YOUR SINGER」はまさしく彼ら自身のあの「別れの夏」を曲にしていたし、35周年の「ピースとハイライト」は歌詞そのものはLOVE&PEACE的な世界平和を祈るものであったものの、サウンドや聞き味は夏真っ盛りなサザン節だった。そして40周年の今年の活動1発目として配信リリースされたのは「夏」「海」「テンションの上がる」「エロス」のどこにも属さない「闘う戦士たちに愛を込めて」だった。
「ブラック企業」という言葉が流行語大賞にノミネートされたのは2013年のこと。電通の過労死事件が起きたのは2015年のことだ。「ブラック企業」という言葉が広く認知され、その企業体質が問題視されるようになってから長い月日が経過している。にも拘らず未だに2018年の日本には「ブラック企業」が蔓延っている。これはもう個々の企業の問題ではなく、日本という国の悪い体質に他ならないだろう。今年大きな騒動になった日大のアメフト悪質タックルも、上司が監督にすり替わっただけで本質は何も変わっちゃいない。上司(監督)の言うことに従えなければ左遷、という状況になった時、人は悪魔にでもなれることがこの騒動が証明してしまったのだ。
「闘う戦士たちに愛を込めて」の歌詞は、悪意に魅せられた一人のサラリーマンの悲哀を歌っている。
悲しい噂 風の中
悪魔が俺に囁いた
悪意のドアをこじ開けて
心の隙間に忍び寄る
自分のために人を蹴落として
成り上がる事が人生さ
それを許さず抗(あらが)う相手には
殺(や)られる前に殺(や)るのが仁義だろう?
自分のためなら人を蹴落とすことも躊躇わない、殺られる前に殺る、という歌詞に僕は日大タックル騒動を連想しない訳にはいかなかったし、他企業は当然のこと、自分の社内のなかでも出世レースで競い合う現代の企業体制を如実に表している歌詞。
大量の株が売られていった
何故だろう?
噂がひとり歩き始めた
どうしたの?
弊社を「ブラック」とメディアが言った
違う違う
自分たちのことを客観視出来ていない組織の末路がこの歌詞だ。株が売られる訳も、ブラック企業と形容される理由も本人達は理解できない。事実、電通過労死事件の時も電通社員、或いは電通と絡んでいる人間たちのそういった釈明をSNS上で目にした。
2018年の日本という国の現状をここまで鋭く切り取った歌詞は、間違いなく他にない。桑田佳祐のバランス感覚、そして彼ならではの視点、批評性こその歌詞。こんなに社会派な歌詞なのにタイアップの映画「空飛ぶタイヤ」(この映画は三菱自動車のリコール隠しをモデルにした池井戸潤の同名小説を映画化したもの)としてもピッタリというか、むしろタイアップに目掛けてこういう曲を作れる桑田佳祐。このあたりのバランス感覚も桑田唯一無二のものだろう。
しんどいね 生存競争(いきていくの)は
なによりこの一節に心撃たれてしまった。思えば僕自身、ずっと生きていくことがしんどかった。今なお、というかなんなら今がピークってくらいにしんどい。でも、桑田佳祐が生きていくことはしんどいものだよな、と僕の感じているこの感情を肯定してくれたような、それだけで、その一節だけで僕はこの曲が泣けて泣けて仕方がないのだ。
サウンドはエスニックと歌謡曲をごちゃ混ぜにしたような、ここ数年の桑田佳祐の歌謡曲に傾倒していた音楽性をアップデートしたよう。右チャンネルで絶えず流れるギターがなんとも小気味良いこと。それまでは気持ちよいところに丁度良く流れていたギターが、サビになると不安定というか違和感というか、思っているのと違う所に入ってくるのだけど、これが良い意味でアクセントになっているのも妙技だなと。
なにより40周年という記念すべき年にこんな曲を1発目からかましてくるサザンオールスターズの果てしなくロックなこと。紛れもない上半期1位です!
以下、全曲まとめ。
①「戦う戦士(もの)たちに愛を込めて」サザンオールスターズ
②「ミューズ」吉澤嘉代子
③「Ref:rain」Aimer
④「フィクション」sumika
⑤「ノーダウト」Official髭男dism
⑥「Lemon」米津玄師
⑦「カメレオン・レンズ」ポルノグラフィティ
⑧「たったさっきから3000年までの話」チャットモンチー
⑨「Play A Love Song」宇多田ヒカル
⑩「ain't on the map yet」Nulbarich
⑫「満月の夜なら」あいみょん
⑬「808」Suchmos
⑭「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」ヤバイTシャツ屋さん
⑰「ウララ」ビッケブランカ
⑲「ハルの言う通り」indigo la End
⑳「偽りのシンパシー ft アイナ・ジ・エンド(BiSH)」MONDO GROSSO
今年はポップスを得意とするバンドの躍進が目立ったな~というのが大きな感想。
まだまだ2018年は続く。後半はどうなるのか。非常に楽しみ。