映画「何者」感想 ~「リアル」という武器~

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遅まきながら映画「何者」見ました。

この映画が劇場で公開されたのは1年前。就職活動を目前に控えていたこともあって見たいなと思いながらも「でも見たら死ぬ」という謎の強迫観念で見ることを控えていたのです。

あれから1年。先日内定がやっと出たこともあって、「これは今こそ一番見るべきタイミングなのでは...?」と思い切ってレンタル。バッチリと見てきました。ネタバレあります。これから見る予定の人はこの記事を読むのをやめましょう。

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以下、簡単な粗筋を。

御山大学演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。

何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく光太郎。

光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。

「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。

就活はしないと宣言し、就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、焦りを隠せない隆良。

瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた22歳の大学生5人は、理香の部屋を「就活対策本部」として定期的に集まる。海外ボランティアの経験、サークル活動、手作り名刺などのさまざまなツールを駆使して就活に臨み、それぞれの思いや悩みをSNSに吐き出しながら就活に励む。SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする本音や自意識が、それぞれの抱く思いを複雑に交錯し、人間関係は徐々に変化していく。やがて内定をもらった「裏切り者」が現れたとき、これまで抑えられていた妬みや本音が露になり、ようやく彼らは自分を見つめ直す。

就職活動の映画と言うだけあり、まずはもう「就職活動」というものの描き方がめちゃくちゃリアル。合同企業説明会、Webテスト、グループディスカッション、マ○ナビにリ○ナビ。どれも現代就職活動には欠かせないものであり、僕自身もいやと言うほど見てきたものでもあります。こういった「リアル系」の映画、フィクショナルな世界ではなくリアルタイムに今この世界のどこかで起きているかもしれないと思わせなければならない映画において、こういうリアルさに直結する「ディティールの細やかさ」は大きな武器・アドバンテージになります。そしてこの「何者」という映画はそこが絶妙。もうね、そのディティールの細かさ1発だけでも「うわぁ」ってなってしまう。合説の模様を頭上から撮影したシーンなんかもうね、「うえっ」ってなるんです。男も女もみんな黒髪で黒のスーツを着てキビキビ歩いているあの感じ。体温を感じない感覚というか。本当はそれぞれ皆、何かしら思いだったり信念だったりを抱いて就活しているハズなのに、それを全く感じないあの合説の独特な雰囲気。僕が3月にビッグサイトで感じたあの嫌な感覚を思い出さないわけにはいかなかったです。

ここまで羅列してきたのは「見た目のリアルさ」ですが、「それぞれの登場人物」もリアル、というか「あ~~~~いるわこういう奴~~~~~~~~」に溢れているんですよね。それぞれのキャラがすべてそれぞれにあるあるになっているというか。意識高い系の学級委員長系女子、バンド上がりのへらへら系男、意識の高さがカンストして逆に就職しないサブカルクソ野郎。全部見たことあるわ~~~~と。ぶっちゃけこの映画に「いい奴」なんか一人も出てこないです。強いて言うなら有村架純の役柄は「よさ"げ"」な感じがしますけど、それだって僕にしてみたら「げ」でしかない。でも、それもまたリアルというか。本質的に、誰から見ても「いい奴」な人間なんていないんですよ。誰かにとってはいい奴でも、他の誰かからはめちゃくちゃ嫌な奴、なんてのはよくある話、どころか自分自身がまさにそういう人間であるとすら思っていて。そういうところも物凄いリアリティがありました。

この映画、爪の先まで一貫してリアルなんですよ。その最たるものがTwitter。就活映画、みたいに言われがちですけど、この映画の本質はSNSにある、SNS映画だとすら思っていて。いやもうこれそのへんの誰かの呟きそのまま持ってきてるでしょ?ってくらい。もうなんならこのつぶやき見たことあるんじゃねぇかって錯覚するくらいあるあるなんですよ。その呟きをしている本人はいい気になって自分だけの、唯一無二の呟きをしていると思っているんだろうけど、全然没個性だからなそれ、みたいな呟き。主人公拓人の裏アカなんかまさにそう。人を分析して、批判して、自分は高みから見下ろしている。彼のいる場所は高みでもなんでもないのに。見ているときは「うっわこいつクソ過ぎ」と思ったし、今だってこうやって書いているけれど、拓人こそ自分なのでは?とも思うんですよね。実際、Twitterだって僕自身2つアカウントを持っているし、彼みたいに非難したり馬鹿にしたりしてる瞬間はあるかもしれない。

終盤の拓人の裏アカが理香にバレていたことが発覚するシーン、実は拓人は就活2年目だと発覚するシーン、そしてそのすべてを総括する演劇シーンの流れは衝撃。このギミックとそのすべてを纏める演劇の流れはこの映画のキモであり一番の見せどころのはずなんだけど、まあバッチリ決まってやがる。思わず「うおおお~~!!!」と声を上げてしまうくらいに驚いた。思い返せば伏線も至る所に配置されていたなと。このギミックがあるだけでこの映画100点じゃねぇの?ってくらいの展開でした。

 やっぱりこの映画の魅力は「リアルさ」にあるかなと。就職活動の現状を知っていれば知っているほど、TwitterSNSの在り方を知っていれば知っているほど面白い。でも、だからと言ってそれらを知らなければ楽しめないかと言われたらそうではなくて。拓人は大きな大きな挫折を、それは就活どうこうの域を超えて、人間の生き方としての挫折を味わい、それを乗り越えて1つ大きな扉を文字通り開く。その圧倒的なエモーショナルは、どんな人でも感じ取れる普遍的な感動なのだはないかと思う。

映画「何者」、これから道を切り開かんとする全ての人にオススメです!

何者

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