吉澤嘉代子「残ってる」考察
吉澤嘉代子の新曲、「残ってる」がリリースされた。2枚目のシングルである今作は、聞き手である僕たちを歌詞世界に没入させる、求心力の極地みたいな圧倒的な1曲になっている。歌詞を考察しながらこの作品を読み解いていこうと思う。
改札はよそよそしい顔で
朝帰りを責められた気がした
私はゆうべの服のままで
浮かれたワンピースがまぶしい
この作品の中の主人公はどうやら女性で、朝帰りをしたことがこの1節から分かる。ワンピースを着ていることから夏だということも推察できる。
風邪をひきそうな空
一夜にして 街は季節を越えたらしい
つい昨日までは夏の陽気だったのに、急に寒さが襲うことがよくある。ついこの前も僕自身そんな感じで半袖で出かけてしまって寒い!みたいな経験をした。けれどこの曲の中の主人公が憂いているこの1節からはそんな生易しいものではない何かを感じる。
まだ あなたが残ってる からだの奥に残ってる
ここもここもどこかしこも あなただけ
でも 忙しい朝が 連れて行っちゃうの
いかないで いかないで いかないで いかないで
私まだ 昨日を生きていたい
結論から言えばこの曲は「初体験」をテーマにしたものだろう。朝を迎えることでその瞬間が過去になってしまうことへのむなしさ、夜を共にした相手との別れへの寂しさ。「私まだ 昨日を生きていたい」にはそういった様々な要素がこもっている。
一夜にして 街は季節を越えたらしい
再度この歌詞に戻ると、この歌詞の解釈としては「街は季節を越えた」のではなく「主人公自身が季節を越えた」ことによって「街の季節すらも変わったように見えている」のである。この曲がメディアで紹介されるとき、「季節に取り残された女の子の歌」という紹介がされていたけど、僕はむしろその逆だと考えている。
誰かが煙草を消したけれど
私の火は のろしをあげて燃えつづく
季節を越えても、それどころか越えたからこそ彼女の心に灯った恋心という火は尚も燃え続けているのだ。
音楽の解釈は無限大である。「考察」なんて大見得を切ったが、この曲もそれは例外ではなく、僕は「初体験」をテーマにした歌だと解釈した上でこの考察記事を書いたし、シンプルに季節の移ろいに思いを馳せる歌という解釈もできるし、「初体験」を飛び越えて「ヤリ捨てられた女」という解釈すら出来るかもしれない。それは人によって様々だろう。貴方の「残ってる」の解釈はどんな色を、どんな形をしているだろう。
夏から秋への移り変わりのあの瞬間、あの一瞬をこんなにも美しく、儚く、抒情的に描いたこの曲は、今後の吉澤嘉代子の代表作になるだろうし、僕がいつか今年の夏を思い出すときは絶対にこの曲が思い浮かぶだろうし、僕にとっての大切な曲の1つになったことは間違いない。
吉澤嘉代子「残ってる」、おススメです!