【コラム】書店員ふじもとが考える、書店のこれから
この記事を読んでいる貴方、最後に書店に行ったのはいつですか?
僕は書店で働いてますんで、最低でも週3回は必然的に行くことになります。嫌でも。それは仕事だからカウントしないにせよ、休みの日に職場の本屋に行くことも結構あるし、遠くに出かけた先に書店があったら積極的に入ることにしてます。あとCDショップとヴィレッジヴァンガードも。
最近、書店業...というか出版業界全体がどんどん落ち目になっている感覚があります。というか小売店そのものかな。その理由は単純明快で、本もネットでダウンロードして読んだり、amazonで購入したり。とにかくすべてのことがインターネットで済ませる事の出来る時代になったということなのでしょう。それ自体は世間の流れとして仕方の無いこと...というか、止められないことですよね。大衆が利便性の良いものを求めるのは当然のことで。僕ら書店員がどうこうして「止める」事ではないと。でも、何もしないのもおかしいと思うんですよ。ネットで本を読んだり、amazonで本を購入するのに良さがあるように、小売店には小売店の良さがあるし、その良さを失うにはまだ早いと思うんですよね。
じゃあまず具体的に小売店、とりわけ書店実店舗の良さって何なのでしょう?
①実際に中身を確認できる
amazonだと本の中身を確認できますよね。amazonでも一部のページまでは読めるようになってたりするけど、実際に買う商品の質、例えばページの紙質とか、不良品か否かもそうですよね。これらはamazonで注文したら届くまで確認することは出来ない。ダウンロードしたものはそもそも紙ですらないし、不良品ってことは早々無いと思うけど。個人的には本って紙質とか、表紙の触り心地とか、そういう所まで読み心地に関わってくる事だと思ってるので、そこも含めてamazonやダウンロードと比べて店は「実際に購入する品物を手に取って確認できる」強みがあると思うのです。
②思ってもみなかった出会いがある
本屋って、例えば目当ての本を買いに行ったとして、その本に辿り着くまでに何十冊もの本を目にするんですよ。だからホントは買うつもりじゃなかったような本との思わぬ出会いが生まれる。amazonやダウンロードだと、目当ての商品に一直線。確かに見つけるまでの「速度」で言えば圧倒的に後者のほうが早いけど、「出会い」の量で言えばやはり実店舗の方がよっぽど強い。amazonにはジャンルごとのランキングがあるから、そういう所で新しい本と出会おうと思えば出会えるんだけど、それだって結局は「売れ線」な本としか出会えない。これは何事にも言えることだけど「売れ線」=面白い、ではないですよね。面白さってその人の価値観や受けてきたカルチャーに由来するから、いくら日本で1番売れている漫画だとしても、合わない人には合わない。ダウンロードはダウンロード市場に積極的に参入しているような出版社が出しているような本しか取り扱いが無かったりする。自分の読みたい本が電子版としてリリースされていないことだってある。これは致命的ですよね。まだまだamazonやダウンロード市場はこの辺が弱いと僕は思っていて。(少なくとも僕は)実店舗に行って自分の本当に読みたい本と運命的な出会いをしたい。
③スピードやタイミング
amazonやダウンロードだと、注文、お金の支払い、商品到着、これら全てのタイミングが全部バラバラなんですよね。それはamazonやダウンロードで購入するときの利点でもあり、弱点でもあると思っていて。実店舗での購入ならこれらのタイミングが大体同じ。注文(お店に陳列されているものを手に取る)→支払(レジでお金を出す)→商品到着(すぐに受け取れる)。特に今社会問題になっている「宅配便、届けたのに人がいない」問題は僕ら利用者が思っている以上に深刻な問題で。そういうものを解消するために宅配BOXみたいな制度も増えてきているけど、まだまだ浸透度は高くない(だからこそ問題になっていて)。こういうところのシステムの根本的な解決が行われないとamazonは破滅していってしまう気が(個人的には)しています。
④「コト」消費がし辛い
SNSが発達して、最近だと「インスタ映え」みたいな言葉がものすごく使われていますよね。これこそ世界的な流れとしてどうしようもないというか、今までは消費者でしかなかった我々利用者が、発信者になっていく時代で。今のユーザーは「発信すること」を一生懸命探しています。その需要に応えるためにはやはり「体験型」の販売方法にシフトしていかなくてはならないし、amazonやダウンロードだとそういう「体験型」での販売は難しいと思うんですよね。逆に実店舗はアイディアさえあればいろんなことができると思うんです。
既にこの④、「コト消費」に関しては色んな書店が色んな展開をしてますよね。
TSUTAYA×スターバックスの「Book & Cafe」スタイルのお店はすっかり定着しました。書店とカフェが併設され、購入前の商品でもCafeでお茶やコーヒーを楽しみながら読めるスタイル。ほかの店では体験出来ないこと=「コト消費」に繋がりますよね。ただこれももう目新しさは無くなりつつあるので、他の新しい「コト消費」を探さないといけない、というか最早小売店は常態的に「コト消費」を探し続けないといけないところに来ています。
先日、名古屋市守山にある「草叢BOOKS」に行ってみました。
ここは東京・代官山にある蔦屋書店(TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する新しいカタチの書店)のコンセプトを受け継ぐBook & Cafe 形式の書店です。
店内は撮影できないので、撮影可のブースと外観だけ。
本、文具、雑貨は勿論、レンタル、starbucks、中古本販売、フードコートまで揃っているまさに「究極の書店」がこの草叢BOOKSでした。どんな業態にも言えることだけど、もはや小売店は「コンビニエンス」化していかなくてはならなくて、なるべく1箇所でさまざまなモノが揃うことが好ましく、そういう意味ではここに来るだけで本も文具も雑貨も音楽も映画も揃うし、その合間にコーヒー飲んだり、食事したり、良い本が見つからなければ中古本を探したって良い。ここだけで1日過ごせてしまえる書店になっていました。それが結果として「コト消費」にも繋がっているんですよね。商品陳列、ディスプレイにも非常に凝っていて、本と本の間にジャンルや出版社などを分かりやすく記載しておく間仕切り(インデックス)も、ダンボールで作られていて、他にも記載されている文字も黒字の明朝体というオシャレデザイン。床にスノコを敷いてその上に塔のように本を並べるような陳列方法を取っていたり、これもめちゃくちゃオシャレ。「オシャレ」ってすごい抽象的な言葉だけど、「オシャレ」ってだけで非日常空間になるし、それが結果として「インスタ映え」見たいなものに繋がって、一般の人が投稿したインスタを見た人がまたそこに行きたくなる、って良い事しかないと思うんですよね。あとは「イベント」。イベントを開催する=そこだけでしか体験できないことができる=他の書店との差別化が図れる、というのは大きいですよね。この草叢BOOKSでは中古本の詰め放題企画をやってました(期間限定)。たまたま僕が行った日に開催していたので、僕も「聖☆おにいさん」の1巻~4巻を購入。母親が購入した書籍と合わせて3000円近い商品が1620円で購入できました。
こういうの、ホント誰かに言いたくなるじゃないですか。そういう面白い場所があって、面白い体験まで出来る。そういうことが出来る小売店が今後生き残っていくようなお店なんじゃないかと思うし、スーパーなどに比べて書店はそういう体験を作りやすい場所だと思うんですよね。
これから書店はもっと色んな「体験の場」になっていくと思います。必然的に。書籍や文具や雑貨を通してお客さんに色んな「面白い!」を感じ取れるような書店が増えていくと思います。行ったことはないけど、電気屋と書店のコラボ店舗もあるみたいです。色んな業種とコラボして、より多角的でより面白い、多様性のある書店が増えていくと思うし、そのほうが健全だなとも思います。同じことばかりやっていてもつまらないしね。
この記事を最後まで読んでいただいた貴方。是非、色んな書店に行ってみて欲しいです。思わぬ出会いや体験が書店では出来ると思います。我々書店員も(僕は一端のバイトだけど)お客様に面白い!楽しい!と思われるような書店作りを目指して行きたいと常日頃から思っています。どうか書店に出かけてみてください。