Base Ball Bear×本田翼 MUSIC VIDEO3部作に関する考察

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タイトルの通りです。クッソ趣味な記事ですが良かったらお付き合い下さい。

ミュージックビデオ、皆さん見ますか?貴方の好きなミュージックビデオは何ですか?PVとMVという二つの呼称が混在してしまっている現在において、ミュージックビデオを真剣に作るミュージシャンもいれば簡単に済ましてしまうミュージシャンもいる。岡崎体育なんかはまさにミュージックビデオを真剣に作るミュージシャンだ。「MUSIC VIDEO」というタイトルの曲で大ブレイクを果たしてしまった彼は、日本のミュージックビデオの歴史に名前を刻み込んだ1人だろう。

日本のミュージックビデオの歴史、なんてテーマで記事を書いたらそれだけで論文になりそうだ。そんな大層な記事はまたいつか書けたら書くとして(本当か?)今回は自分の好きなバンド、Base Ball Bearのミュージックビデオについて考察してみたいと思う。

現在Base Ball BearYouTube公式アカウントにアップされているMV数は28本。数あるMVの中でも今回取り上げたいMVは3本。Base Ball Bearのミュージックビデオを語る上で外せない女優、本田翼の出演作である「short hair」「PERFECT BLUE」「すべては君のせいで」の3作だ。彼女が今ほど売れっ子女優になる前、2011年に「short hair」のミュージックビデオ及びCDジャケットに起用されて以来、2013年「PERFECT BLUE」、そして2017年「すべては君のせいで」と3作に渡りBase Ball Bearのミュージックビデオに出演している。このMVがあったからこそ今の本田翼があると言ってもいいし、本田翼が「short hair」をはじめとする数々のMVに出演したからこそ今のBase Ball Bearがあると言ってもいい。事実、何のタイアップが付いたわけでもない「short hair」の知名度や支持率はBase Ball Bear全曲の中でも圧倒的に上位だ。Base Ball Bearと本田翼は途轍もない親和性を魅せる。そしてこの3作のMVは同じ世界観を共有しているMVだというのが僕の持論だ。3作のMVを紹介しながら、この世界観の共有について論じたいと想う。

①「short hair」2011年 監督:児玉裕一 

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2011年の8月最後の日にリリースされたこの曲は、名実ともにBase Ball Bearの代表曲になった。爽やかさを纏った夏の歌。爽やかなラブソングのようで、様々な解釈も出来るのがこの曲の魅力だろう。

監督の児玉裕一は様々なミュージシャンのMVを手がける映像作家で、Perfume東京事変水曜日のカンパネラPOLYSICSなどのMVを手がけ、Base Ball BearのMVも8作程手がけている。あと椎名林檎の夫。羨ま死。

解釈における構成はMVにも反映されている。一見すると本田翼のイメージビデオとも言えてしまう様な構成のこのMV。MVの「その先」を考えていくと、とても切ないMVだなと思えてくる。このMVのなかで本田翼が演じる女性は誰と会話をするわけでもなく、コミュニケーションをとることも無い。夏目漱石の「こころ」を読むか、自転車を漕ぐか、精々かき氷を食べていただけだ。メンバーと同じカットに写ることすら無い。何故だろう。これはこの女性が亡くなっていることを示唆している、というのが僕の持論だ。

ファーストカットの赤い風船が割れるシーンの風船は心臓のモチーフだ。それが破裂する=「死」。

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また、女性が回転椅子に乗りクルクルと回りながら本を読むシーン。

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座りながら回転する本田翼。カットが変わった途端に居なくなり、惰性で回転し続ける椅子だけが残る。

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これもまた、この女性がこの世には存在しないモノという表れだろう。

この作品が作られた2011年はご存知の通り東日本大震災が発生した年だ。そしてこのMVのロケ地は千葉県の九十九里。海辺の町ということもあり、3.11による津波被害も甚大だったとされる。そして2011年は小出祐介が敬愛していた彼の祖父が亡くなった年でもある。「死」が扱われる理由がここからも推察できるだろう。

作品内ではVo.小出祐介、そして本田翼演じるこの女性の2者が夏目漱石の「こころ」を読んでいる。

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これは「死してもなお、心ではつながっている」ということの暗示だ。人には見えない「心」を夏目漱石の「こころ」を使って表している。「僕らをつないでいるのは心と心のイメージ力」。

曲の最後、それまで本田翼が居た場所が映し出される。そこには先ほどまでの楽しそうにしている女性の姿は無い。

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「short hair」の歌詞には「失う」というフレーズが頻発する。この誰も居ないカットを挟むことで「何か、あるいは誰かを失う」というこの曲のテーマのひとつが表現されつつも、このMVの解釈の鍵のひとつとしても機能しているのではないだろうか。

②「PERFECT BLUE」(2013年)監督:志賀匠

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2013年2月13日リリース。監督はサカナクションでんぱ組.incのMVも手がける志賀匠。Base Ball Bear初のベストアルバムとなった「バンドBのベスト」と同発。ということでMVも同じ映像でありながら「PERFECT BLUE」のみとベスト収録曲+「PERFECT BLUE」のスペシャルダイジェスト版が存在する。

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 この記事にも書いたが、「PERFECT BLUE」もまた「死」の要素が色濃く出た作品だ。一見すると爽やかな夏の歌だが、とある少女の「死」がダブルミーニングになっている。その要素はMVにも色濃く現れている。

「short hair」と同様、本田翼の演じる少女は基本的には誰と会うでも喋るでもない。しかし「short hair」と違うのは小出祐介は少女の存在を明確に認識しているし、同じ世界線にいるということだろう。

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小出の先に本田翼がいることが分かる。

そして、この世界は明らかに「この世」ではない異常な世界線だということも示されている。

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唯一彼女が認識する生命体がゴリラだ。これもまた「不条理な世界」という証明になっている。いやもうここはだいぶこじつけだけど。

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ゾンビもいるけど、彼らは生命体ではない。だけど、ゾンビのいる世界線である以上、「幽霊」だとか「死後の世界」が居たりあったりしてもおかしくは無いだろう。

あとは、少女の着ている服がコロコロ変わっている(小出祐介の服は一貫して同じものだ)のもこの世界観の不条理さを表しているだろう。

以上のことを踏まえると、この作品内の小出祐介は「一線」を越えかけているということだ。もう少し分かりやすく言えば、「アチラ側の世界」に足を踏み入れようとしている。「short hair」の頭で亡くなった少女の影を小出は追っている。という解釈が出来る。

そして、MVの終わり、今までは交わらなかった2者が交わる。

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少女の影を追っていたカウンターがもぎ取られる。

「22」を示していたカウンターは、少女自らの手によって「23」へとカウントを進められ、このMVは幕を閉じる。

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この瞬間、(この世界線での)小出祐介は明確にアチラ側へと歩を進めたと考えるのが自然だろう。

正直に言えば、ゴリラもゾンビも「23」という数字もすべてベスト盤によるモノですが、この映像作品のみで考えるとこういう結論に至る、ということをご了承ください。

③「すべては君のせいで」(2017年)監督:山田智和

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2017年4月12日リリースの7thフルアルバム「光源」収録。監督は山田智和。Base Ball Bearの「『それって、for 誰?』part.1」やサカナクションなどMV、NTT docomoのCMなどを手がけている。

そもそも「すべては君のせいで」自体、「ある日突然 幽霊にされた」という歌詞が(比喩ではあるが)あったりする。ロケ地は新宿、地上25mで撮影された。少女のまわりにはデスクやソファーや黒電話があり、デカンタで水を飲んだり花に水をあげたりしている。

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このあたりから既に「PERFECT BLUE」にかなり近い、けど少し違う「不条理さ」をを感じる。

PERFECT BLUE」のラストで「アチラ側の世界」へと歩を進めた小出祐介(及びベボベメンバー)。最初こそ「short hair」と同様、お互いに交わらないまま映像は展開していく。

一生着かないと 一生すれ違わないと

わかっていた僕の頬を撫でていく光のリボン

「すべては君のせいで」Base Ball Bearより引用

 この歌詞と同時に、ついに今まで部分的に(カウンターもぎ取っただけ)しか交わらなかった両者が完全に交わることとなる。

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その瞬間、少女は涙とも雨とも分からない表情をする。

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そして曲が終わると、少女は満面の笑みで手を振る。

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Base Ball Bear×本田翼シリーズはこの「すべては君のせいで」で完結した、というのが私の考察だ。この笑顔と手をどういう風に解釈するかはあなた次第である。

 

如何でしたでしょうか。結構こじつけ感もありますが、面白い考察になったと思います。MVは音楽に付随するオマケのような扱いをされがちで、すぐに消費されてしまうものも多いですが。真剣にMVと向き合えば向き合うほど面白い解釈も出来るなと思います。映像はとても面白いメディアです。解釈は一つではありません。あなただけの解釈があってもいい。MVを消費せず、様々な角度から見てください。

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参考サイト

akabaneouji.blogspot.jp

akabaneouji.blogspot.jp

tomokazuyamada.com

togetter.com

その他Wikipedia