indigo la Endとラブソング

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世の中はラブソングで溢れかえっている。

オリコン歴代ランキングの大半はラブソングだ。サザンオールスターズTSUNAMI」も、CHAGE and ASKA「SAY YES」も、小田和正ラブ・ストーリーは突然に」も、安室奈美恵「CAN YOU CEREBRATE?」もぜーんぶラブソングだ。これらの曲は皆20年近く前の曲ではあるが、現代においてもこの「ラブソング飽和状態」は続いている。「現代の愛の使者」と言ってもいい位にラブソングを歌い続けるback numberは今や紛れもない国民的ロックバンドになったし、2016年に大旋風を巻き起こした星野源の曲は他でもない「恋」だし、同じく16年に大ヒットした映画「君の名は。」(これもまた、とある運命によって結ばれた2人の恋愛模様を描いた映画だった)のRADWIMPSが歌う主題歌は前世を飛び越えて「前前前世」から君を想うラブソングだった。そんなラブソングだらけの邦楽業界に対してのアンチテーゼとして、いわゆる普遍的なラブソングではなく、「新しいラブソングの形」を提示したバンドだっている。ラーメンや米が好きすぎて曲にする打首獄門同好会のスタイルはまさに「究極のラブソング作り」だ。兎にも角にも、日本の音楽業界は「ラブソング」でこんなにも溢れているのだ。

「ラブソング飽和状態」なんて言葉を書いたけど、僕はラブソングに対して否定的な立場をとるつもりは更々無い。邦楽はラブソングばかりでつまらない、という意見をたまに見かけるが、むしろ人間誰もが抱く感情である「愛」や「恋」が音楽制作におけるテーマに据えられるのは必然だと個人的には考える。ラブソングは誰もが共感できるテーマだからこそ曲にしやすいし、それ故に抜きん出るのも難しいのだ。

indigo la Endというロックバンドを貴方はご存知だろうか。この「ラブソング飽和状態」の中でもとりわけ僕は彼らの作るラブソングが大好きだ。ボーカル、そして作詞作曲を担当する川谷絵音はご存知の通り、昨年様々な騒動を引き起こした。恋愛に対して軽薄なイメージが付いて回る彼だが、僕は彼の作るラブソングにどうしようもなく惹かれてしまう。間もなく発売される新アルバムを前に、現在はとかく「騒動」を引き合いにされがちな彼らの『魅力』を「騒動」を抜きに再定義出来ればと思いキーボードに向かい合った次第だ。

indigo la Endの大半の楽曲テーマは「失恋」だ。それは川谷絵音のもうひとつのバンド「ゲスの極み乙女。」との明確な差別化であると同時に、バンドが持つ雰囲気や強固な世界観に繋がっている。indigo la Endの描く恋愛模様の大半は幸せなそれではなく、悲しみを纏った失恋であり、そこから引き起こされる虚空であり切なさを鮮やかに描ききってしまう。とかく恋愛というやつは、往々にして痛いモノだ。必死に誰かを追いかける「イタさ」、失恋した時の「痛み」。対外的にも対内的にも「痛さ」がまとわりつくのが恋愛だと僕は思っていて、indigo la Endはその「痛み」を描くのが巧みだ。

君が好きだってこと以外は

この際 どうだっていい

「藍色好きさ」indigo la End

「君が好きだってこと以外どうだっていい」なんて公言してる人が実際にいたとして、正直傍からその人を見たら「うわこいつイテェな」「寒いな」って思ってしまうのではないだろうか。少なくとも僕はそう思ってしまう気がする。でも、いざ自分に好きな人が出来たり恋人が出来たら「君が好きだってこと以外どうでもいい」って思ってしまう。傍から見たらきっと自分も「イテェな」って思われてるって分かってるのに、それでも強く考えてしまう。そんな「恋は盲目」って本当なんだなと。

止められないの 溢れてしょうがないから

意味もなく声も出すんだ

よそいきの服を濡らして夜が明ける

「雫に恋して」indigo la End

 失恋は悲くて、辛くて、切なくて、痛いものだ。人間はその感情に起因して涙を流す。悲しみが大きければ大きいほど、恋破れた相手のことを想っていれば想っているほど、心が痛めば痛むほど、涙はとめどなく流れる。そんな「涙」をここまで情緒豊かで鮮やかに表現した歌詞は他には無いだろう。「涙」や「振られた」みたいなワードを使わずとも、「この曲の主人公は失恋して涙を流している」ことがすぐに分かる。止めようと思っても止まらない失恋の涙。雫が零れ落ちるような、淡い水色を思い浮かべてしまうギターの音色にどうしようもなく涙してしまう。

悲しくなる前に

あなたを忘れちゃわないと

無理なのわかってるの

と夜更けに向かって走った

涙が枯れたらさ

またあなたを思い出すの

触れるか触れないかで

心臓が揺れるよ

抉るような声で

また呼びかけてよ

「悲しくなる前に」indigo la End

愛する人と別れた時、貴方はその人を簡単に忘れることが出来るだろうか。大半の人は忘れることが出来ないと思う。忘れようと強く意識すればする程に、その人の顔や匂いや声が痛いほどに蘇ってくる。なんて経験をしている人も多いだろう。枯れるまで涙を流してもなお、自分の心にこびり付いて離れない。疾走感のあるロックサウンドはまるで「早く忘れなきゃ」と焦っている心の中を表しているようだ。

彼らのニューアルバム「Crying End Roll」がもう間もなく発売される。あの騒動を経た彼らのラブソングは、不謹慎なようだが途轍もない作品になるだろう。川谷絵音自身が感じた様々な感情をそのまま真空パックしたかのような作品を僕は期待している。indigo la Endの歌は、恋愛を、失恋をしてきた全ての人の琴線に触れることの出来るモノばかりだ。貴方がもし恋に破れることがあれば、数あるラブソングの中でもindigo la Endを再生してみて欲しい。きっとその美しい水色の世界観に、想っていた相手を嫌でも重ね合わせてしまい涙することだろう。