ヤバイTシャツ屋さんのゆくえ
ヤバイTシャツ屋さんのメジャーデビューアルバム「We love Tank-top」がリリースされた。
思えば彼らの事をTwitterを介して知ったのが去年の今頃だった。年明け3月に名古屋まで1stと2ndシングルを買いに行ったし、タワレコ限定盤は通販で確実に購入した。夏に出た3rdシングルも下北沢に住んでいる後輩に頼み込んでいち早くGetした。車で「ネコ飼いたい」を流していたら母親は1発で覚えた。今年の僕は彼らと共に歩んでいたと言っても過言ではないはずだ。ついにメジャーデビューかと思うとなかなか感慨深いモノがこみ上げる。
彼らの歌詞は極めて内向的で、最早自分語りの極みだ。とは言っても世間でよく言われる「内向的」「自分語り」とは全く違った趣だ。普遍的なエモーショナルさなど皆無で、自らをある種卑下する事によって彼らの半径5m圏内のものをぶった斬り続けるというスタンス。それは自分が何が好きで何が嫌いであるかを明確にし、突き放しまくるいうことで、そういった部分において彼らは極めて内向的であると言える。と同時に、彼ら自身が極めて「普通」であった結果、内向的であったはずの歌詞が結果として人々の共感を呼ぶ歪な普遍的さのある歌詞に仕上がっているのではないかと思う。
彼らの出自は大学の音楽サークル。文化祭でライブをするに当たり、コピバンでの出場が不可とされたからオリジナル曲を制作した。それが「ネコ飼いたい」だったそうだ。つまり初めて作った曲が「ネコ飼いたい」だったということで。1曲目からあの圧倒的な歪なエモーショナルを感じさせる「ネコ飼いたい」を作ったあたりに彼らの凄みを感じる。静と動を巧みに使い分け、歌詞はひたすら「ネコ飼いたい」だけ。メッセージ性なんてものは全くないが、謎の感動をもたらすのがこの「ネコ飼いたい」ではないだろうか。
なにかと(僕含めた)世間は彼らの言動や「あつまれ!パーティピーポー」「喜志駅周辺なんもない」みたいな「分かりやすいネタ」に目がいきがちだし、このアルバムが出るまではそういう「面白さ」が凄まじいバンドだったし、間違いなく彼らの分かりやすい特徴はその「面白さ」だろう。インディーズ時代を総括する側面も持つこのアルバムには今までにリリースされたこういった「ネタ枠」的既存曲たちも沢山収録されている。
しかし、今回のアルバムの一番の聞き所は既存曲ではなく新曲群だ。勿論今までの曲のように笑えるポイントはしっかりと押さえてある。が、今までのように勢いだけで突っ走るような作風は抑え、より音楽的なエモさを追及しているのだ。
今日も結局すき屋…
週に10日はすき屋 …
「週10ですき屋」ヤバイTシャツ屋さん
今まで通りとても歌詞とは思えない歌詞であることは間違いない。が、今までになかったような極めてメロディアスな楽曲にこういう歌詞が乗る。これはインディーズ時代の曲にはなかったような作風だろう。
なにより僕が推していきたいのが「流行りのボーカルの男みんな声高い」だ。タイトルだけ聞くと岡崎体育「MUSIC VIDEO」のような「音楽シーンあるあるネタ」のような曲だと思いがちだが、この曲はヤバTが初めて真っ当な自分語りをした歌詞になっている。
4万円のレスポールと
5万くらいのベースと
3セットで1500円くらいのスティック
楽器歴だけ以上に長い3人が集まった
4万円のレスポールの弦は
今も錆びついている
やる気に反するプライドが
いつも僕らの邪魔をするけど
出来る範囲で行けるとこまで行こうぜ
「流行りのボーカルの男みんな声高い」ヤバイTシャツ屋さん
あくまでも「大学の音楽サークル」の延長みたいなノリで音楽活動を続けてきて、バンドのスタンスを提示するよう歌詞に凄く感動してしまうのは僕だけじゃないはずだ。結果、ユニバーサルからデビューしてオリコン週間7位。スゴイことだと思う。勿論もっともっと有名になってほしいとか、オリコン1位抜いてほしいとか、色々期待もしてしまうけど、彼らはこのスタンスだからこそ成功したと思うし、この先もこういうスタンスで在りつづけてほしいし、またそういう宣言をしたのがこの曲なのではないだろうか。彼らの向かう行方は「出来る範囲で行けるとこまで行く」ことだろう。
今の音楽シーンはどんどん若手を消費して、飽きたらまた別の新しいものに飛びつくような状況だ。彼らのスタンスはまさに消費されて終わってしまいそうな危険をはらんでるけど、「流行りのボーカルの男~」みたいな歌詞が書けたということは大丈夫なんじゃないかなとも思う。音楽シーンに消費されない、長い活動に期待してる。
ヤバイTシャツ屋さん - 「あつまれ!パーティーピーポー」Music Video[メジャー版]
We love Tank-top (初回限定盤)(DVD付)
- アーティスト: ヤバイTシャツ屋さん
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2016/11/02
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