桑田佳祐の「Smile ~晴れ渡る空のように~」が好きになれなかった

桑田佳祐が2020年の五輪プロジェクトの一環である「一緒にやろう2020」にテーマソングを提供すると聞いた時、大丈夫かな?という気持ちになった。

以前、アテネ五輪の時に五輪応援ソングとして制作された「君こそスターだ」は、その後桑田自身が(主に自身のラジオ番組で)貶しに貶しまくっているし、18年にリリースされたベスト盤にも未収録となった。

その一方で、「東京VICTORY」は、震災から五輪開催決定、そして五輪開催に至るまでの日本の姿を歌い、支えるような形で、要所要所で使われてきた。テレビ局のキャンペーンや、車のCMなど、リリースからしばらく経った今でも様々な媒体で耳にすることがある。桑田自身も気に入っているのか、リリース以降はサザンとしてのどんなライブでも歌われている。昨年のツアーでは1曲目を飾る、サザンの新定番曲といった感慨がある曲になった。

君こそスターだ」の失敗、「東京VICTORY」の出来すぎな程の成功。それらを経て、また似たようなテーマでそれらを越える曲を創る、というのは並大抵の事ではない。「一緒にやろうプロジェクト」という、酷く曖昧な「で、これは結局どういうことをするの?」と思うようなプロジェクトのテーマ曲ということもあり、僕は大丈夫だろうかと少し心配をしていた。

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2020年と音楽

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2020年も半分が過ぎようとしている。 

日本において10年代中盤から後半は、誰もが2020年という近未来に憧れと期待を抱きながら過ごしていたように思う。東京五輪の開催、来たる新しい年代。それらに胸躍らせながら、時にはその来たる未来の為に我慢をしながらも、緩やかな日常を過ごしていた。

いざ2020年の蓋を開けば、年初より新型コロナウイルスの世界的流行が始まり、知らず知らずの間に国内でも感染が広がり、各地の大型イベントは無くなり、学校は休みになり、やがて「緊急事態宣言」が発令され、街から人が居なくなった。僕らの日常は突然に終わったのだ。皆があんなにも憧れた東京五輪は延期、その延期となった来年の開催の見通しも今なおつかないままだ。6月になるとアメリカ国内では黒人男性の死亡を巡り抗議デモ活動とそれに伴う暴動が加速。流行病と人種差別という、一昔に憧れた近未来の2020年とは思えないような、絶望的と言うしかないような光景を我々は目の当たりにし続けている。

 

こんな時、音楽は無力である。

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ライブハウスは音楽とやさしさの詰まった場所

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「ライブハウスってどういうイメージ?」と、ライブハウスに行ったことのない人に聞けば、恐らく大半の人からは「なんだか怖い」という答えが返ってくるのではないだろうか。

暗さだとか、激しさだとか、モッシュだとか、身内感だとか、そういう物に恐怖を抱く人は割と多いのかなと思う。実際僕もライブハウスによく足を運ぶようになるまではそういうイメージを持っていた。

でも、ライブハウスってそんな怖いだけの場所じゃないよなと思うのだ。

今回はそんな話を、ゆるく。

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生き続けるロックバンド、その様 ~NUMBER GIRL「TOUR 2019-2020 逆噴射バンド」をZepp Nagoyaで見た~

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2月11日、NUMBER GIRL「TOUR 2019-2020 逆噴射バンド」Zepp Nagoya公演を見てきた。そこには、NUMBER GIRLというバンドの生き様と、生き続ける理由があった。

※本記事はNUMBER GIRL「2019-2020 TOUR 逆噴射バンド」のネタバレを含みます

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QUEEN+ADAM LAMBERT「THE RHAPSODY TOUR」をナゴヤドームを見た!

僕に初めての洋楽ライブとなったのはクイーン。1月30日にナゴヤドームで開催されたQueen + ADAM LAMBERD「THE RHAPSODY TOUR」を見てきました。今回はその感想を。

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昨年の映画「ボヘミアン・ラブソディ」のヒットから改めて再評価、注目されていたクイーンだけど、「ボヘミアン・ラプソディ」のヒットの有無なんて関係なく、ただただ、世界的バンドが世界的バンドである理由、クイーンというバンドの圧倒的な凄みを感じたライブだった。

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クイーンって、僕らくらいの世代のファンじゃない人間からすると、よくテレビで流れてるちょっと面白いバンドみたいな印象が正直あって。

それはフレディのあのルックス(カップヌードルのCMで流れていたタンクトップ姿)とか、あのあまりにも印象的な「We Will Rock You」のリズム(ドッドッダン!って良く手と足を使って教室で真似したのを覚えている)とか、CMとかドラマ、バラエティでの使われ方(カップヌードルのCMとか、ドラマ「プライド」の「I Was Born To Love You」とか、バラエティで自転車乗るシーンで定番過ぎる「Bicycle Race」とか)によるものなんだろうなーと思うのだけど。

でもそういうイメージなんて吹っ飛ぶくらいの幅広い音楽性、そしてバンドとしての強固な地力を体感したライブだった。
コーラスが印象的な曲、打ち込みが全面に出たサウンドが印象的な曲、ロックンロールなバンドサウンドが光ってる曲。「Killer Queen」は妖艶だし、「Bycecle Race」は瑞々しい疾走感に溢れているし、「Radio Ga Ga」のスケールの大きさに圧倒され、「We Will Rock You」のロックンロールにシビれまくって、「We Are The Champions」の普遍性に涙してしまう。

とにかくクイーンのライブは幅広いサウンドが鳴っていて、同時に改めて「そういえばこの曲もこの曲もクイーンだったのか」という衝撃もあって。そんなクイーンの音楽性の広さや間口の広さは日本のバンドで喩えるならサザンオールスターズっぽくもあり。似たような曲が1曲も無い、濃密な2時間半だった。

QUEEN+ADAM LAMBERT」は、クイーンのオリジナルメンバーであるブライアン・メイロジャー・テイラー、そしてボーカルとしてアダム・ランバートが参加したコラボレーション・バンド。だから厳密に言えばオリジナルのクイーンとは似て違う物になる。クイーンの本来のボーカルであるフレディ・マーキュリーの、言わば「代わり」となってしまうアダムには当然物凄いプレッシャーがあるだろうけど、アダムの歌唱からはそんなプレッシャーは毛頭感じず、代わりにフレディへのリスペクト、最早それを通り越した愛をひたすらに感じた。クイーン、そしてフレディへの愛に溢れたアダムだからこそ、このコラボレーション・バンドのフロントマンを張れてるのだろう。

もちろんこのライブのメインボーカルはアダムなのだけど、フレディへのリスペクトを感じるシーンは随所にあって。例えば中盤でブライアン・メイとフレディが大画面のモニターを通してツーショットになる瞬間があって。それは新しいボーカルを迎えてもクイーンがクイーンである事、そして今もフレディも同じステージに立っているというクイーンの思いを感じる瞬間だった。

フレディに纏わる演出だけではなく、今回のQUEEN+ADAM LAMBERTのライブは全編を通して世界的バンドならではのシンプルに音楽を楽しませる演出による場面が多かった。大胆な演出というのはそこまでなかったように思う。それは彼らが音楽の力だけで十二分に魅せ切ることが出来るからに他ならない。とはいえやはり舌を巻いてしまいそうになるほど驚く演出もいくつかあって、例えば「Radio Ga Ga」の前にブライアン・メイが大スクリーンを使って、まるで宇宙のどこかにある惑星の上で壮大なギターソロを弾いているような演出は圧巻だったし、かなり長尺(5分はやってた)のギターソロだったにも関わらず、全く飽きずに聞くことが出来たのはブライアン・メイの演奏の巧みさと共にあの演出があってこそだろう。

そして「We Will Rock You」の演出にも驚いた。「We Will Rock You」のジャケットに描かれている巨人がメンバーの後ろに設置された大ビジョンに映しだされ、会場中を見渡す演出は度肝を抜かれたし、とてもユニークで印象深い。

やはり今回のライブの白眉は本編最後に演奏された「Bohemian Rhapsody」。

不穏なアカペラ・コーラスに始まり、美しいバラードに心惹かれていると、中盤ではめまぐるしく哲学的なオペラを経て、ハードロックに行き着き、最後はまたバラードに着地する。その曲展開は組曲であり、さながらサーカスか、喜劇を見ているかのようで。ライブでこの曲を再現するのは今でも、そして当時は今以上に大変な作業だっただろうと思うし、それをやってしまうクイーンはやはり圧倒的な地力とファンサービスに溢れたバンドなんだなと思う。

普段はどんなバンドやミュージシャン、例えばサザンオールスターズを見ても星野源を見てもPerfumeを見ても「デケェなあ」と思ってしまうのが僕にとってのナゴヤドームという会場だ。ドームは音楽ライブ・コンサートの会場には向いていないとすら思っている。そんな僕が今回のQUEEN+ADAM LAMBERTのライブで初めて「ナゴヤドーム、ちっせぇなぁ」と思ったのだ。それは他でもなく、クイーンの音楽が世界を股に掛ける圧倒的なスケールのサウンドであり楽曲だからに他ならない。もちろん僕は基本的には邦楽リスナーだし、邦楽が洋楽に劣っているとも勝っているとも思わない(というか劣る勝るという概念は音楽に存在しないと思う)し、どちらも異なる魅力が溢れていると思っている。その上で、音楽そのもののスケールで見る者を圧倒させ、会場の広さまでも錯覚させてしまうクイーンという世界的バンドの途方も無い凄味は、初めて彼らの音楽に触れた僕の心を熱くさせた。

クイーンだけではなく、洋楽自体ライトリスナーな僕だけど、本当に心から楽しめたライブだった。なかなか見れるモノじゃないけど、また見たいなと思う。クイーン、そしてアダムがまたいつか日本に来てくれることを楽しみにしている。

Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)

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ボヘミアン・ラプソディ (字幕版)

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打首獄門同好会は何故ラウドロックとエンターテインメントを融合させたのか?【ライブ感想・レポ】

打首獄門同好会「獄至十五」ファイナルワンマンツアーZepp Nagoya公演を見た

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2020年2月10日、打首獄門同好会のワンマンツアー「獄至十五」ファイナルツアーZepp Nagoya公演。「生活密着型ラウドロック」を自称する彼らのワンマンライブは、ラウドロックとエンターテインメントの融合体だった。

※以下、「獄至十五ファイナルワンマンツアー」のネタバレを含みます。

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土岐麻子「LIVE 2019-2020 "PASSION BLUE ~冷静寄りの情熱ツアー~ "」@名古屋 CLUB QUATTROを見た!

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見てきました。本年初ライブ。

以前参加した「中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2018」でReiとのコラボユニット出演を見たことはあるけど、ワンマンは初だった土岐麻子

今回のツアー前にリリースされたアルバム「PASSION BLUE」は、「PINK」「SAFARI」に続く「シティポップ三部作」の最終作、と、彼女自ら各所で話している。現代におけるシティポップと言えばSuchmosやNulbarichの名前がよく挙がるけど、土岐麻子もシティポップの文脈を汲んだミュージシャン。

とはいえSuchmosやNulbarichがそもそも80年代に流行したシティポップとは一線を画すような、アシッドジャズの風味が強い、Jamiroquai辺りから影響を受けている現代的なアプローチのシティポップだったのに対して、土岐麻子は80年代的、当時のシティポップに寄った作風なんだなと今回ライブを見て改めて感じた。山下達郎とか、竹内まりやに近い。かといってJ-POP的なテイストばかりじゃなくて、メロディに対する言葉の置き方とかは全然ポップスらしくない瞬間も多々あって。「High Line」とかまさに言葉の置き方が面白い曲だと思う。

 

彼女の1番著名な曲は「Gift ~あなたはマドンナ~」だけど、ああいう限界までJ-POP的なアプローチよりも近年のシティポップ的な作風の方が圧倒的に素敵だよなーと個人的には。

「PASSION BLUE」には「孤独」というテーマも内包されていて。

meetia.net

それは現在の東京の感覚とも物凄くリンクするなと僕は感じていて。東京五輪だなんだと騒いでいるけど、結局他人の祭だし、そんな喧噪と目まぐるしい変化の中で孤独を感じる人も多いのではないのだろうか。

印象的だったのが東京の地名、麻布とか、もっと言えば明らかに「東京」を連想させる言葉が歌詞の節々で出てきたこと。ライブ開始が東京の地下鉄と人間の血管を重ね合わせた語りのSEって時点で、かなり意識的に「東京」というモチーフを歌っているのは自明で。その理由は土岐さんが東京生まれということもあるのだろうけど、結果としてその詞が土岐麻子の作る音楽をシティポップたらしめているとも思った。SuchmosやNulbarichよりもハッキリと「東京」が作品の根底にある。
ポップスの無垢さと、ジャズのアダルトさが掛け合って生まれるシティポップの都市感。楽しく、そして気持ち良い2時間弱でした。

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PASSION BLUE(CD+Blu-ray)

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