Base Ball Bear「C3」はドキュメンタリー?3人の「今の音」とは!

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Base Ball Bearの約3年振りとなるアルバム「C3」がリリースされた。

3年のブランク、と聞くと随分長いようにも思うが、この3年間の間にBase Ball Bearは圧倒的なバンドとしての体質変化を起こした。3人だけの音で、純然たるスリーピースバンドとしてバンドをやっていこうという決意。そして幾度かのツアーと3人だけの音で作った2枚のEP。そんな紆余曲折を経て生まれたのがこの「C3」というアルバムだ。

 バンドとしての在り方の変化が180°、どころか一周して540°回り回って生まれた「C3」。この作品はBase Ball Bearが「純然たるスリーピースバンド」になっていく過程を追ったドキュメントだ。「音楽アルバム」に対して「ドキュメント」とはあまり、特に日本の音楽シーンでは特に耳にしない組み合わせだろう。一体どういうことだ、と思う人もいることだろう。早速「C3」を紐解こうと思う。

「Cシリーズ」とは

Base Ball Bearはこれまで「C」「C2」というアルバムをリリースしてきた。

「C」は06年に彼らがメジャーで初めてリリースしたアルバム。「CRAZY FOR YOUの季節」「GIRL FRIEND」「ELECTRIC SUMMER」など、その後彼らの代名詞となっていくような青春性の高い楽曲が並ぶ作品だ。

そして「C2」は15年にリリースした6thアルバム。「『それって、for 誰?』part.1」や「曖してる」など、高い批評性を持った視点で紡がれる詞と、ファンクやディスコ、ビート感の強い、今でこそそういう音楽性を持ってシーンに挑んでいるミュージシャンは一定数居るものの、当時はまだあまりいなかったブラックミュージックに接近したサウンドが印象的なアルバム。それらは当時の音楽シーンの先端、というかその先を歩んでいた、今の音楽シーンでも通用する作品だったと言えるだろう。

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「C」「C2」のタイトルに当てられた文字「C」には意味が持たされていた。「C」には「sea」「she」「city」「女の子が口に指を当てて「シー」と言う様子」などの意味が持たされており、「C」というアルバムの世界に流れる「街と海と男女」のような雰囲気を支えている。

一方、「C2」における「C」の意味とは「see」、つまりこのアルバムは「視る」ことが主題として据えられている。現代社会や現代音楽シーンへの批評的な視点、そんな「大人」になっても人生の至る場面に点在する「青春性」。「C2」においても、「C」という文字をアルバムタイトルに据えたのにはハッキリとした理由があった。

「C3」の「C」に意味は無い?

さて、ここまで「Cシリーズ」における前二作について記してきたが、ここまで読み進めてきた読者の方は当然『「C3」の「C」にも意味がある』とお思いだろう。

ところが、である。

今回の「C3」において重要な意味を担っているのは「C」ではなく「3」という数字である。

headlines.yahoo.co.jp

前述の通り、Base Ball Bearは18年の春頃からスリーピースバンドとしての活動を本格化させた。3人だけで全国を回るツアーや他バンドを招いた対バンツアーなど、バンドとしての地力をつける、言わば修行のようにライブを重ねた。19年に入るとスリーピースとしては初めての音源となったEP「ポラリス」をリリース。ビクターに移籍しプライベートレーベル「DGP Records」を立ち上げる。春には17周年を記念したツアーを経て、2枚目のEP「Grape」を発売。「C3」のリリースに至る道筋は決して平坦なモノではなく、新しい挑戦に挑み続け、その過程でスリーピースバンドとしての純度を高めていく、そんな3年間だった。だからこそ彼らは「3」という数字に拘り、その結果としてこのタイミングでアルバムに「C3」というタイトルがついたのだ。

既リリース楽曲が多い理由

「C3」の収録楽曲を並べると先行してリリースされたEP「ポラリス」「Grape」に収録されていた楽曲、つまり既発曲が全て「C3」にも収録されていることに気がつく。「新曲」を楽しみにしているファンからすると、正直に言えば少し拍子抜けしてしまうが、彼らはこんな風に話す。

ここまでずっとライブやりながらリリースしながらってずっとやってきて、その中でスリーピースでの演奏での体感、ライブでの体感って中で曲が出来ていたのに、ここでフルアルバムっつって急にリードだけを抜き出してプラスで8曲とか作るってなっちゃったら、ここまでのEPのコンセプト、楽曲の束ってのを相殺してしまいません?と思った。ここまでの全曲必要な曲だったし、曲に優劣つけてしまうのが嫌だって思った。

2020年1月25日 小出祐介Instagram 海賊版インスタライブより引用

「C3」というアルバムのコンセプトここに至るまでの経緯を踏まえれば、EPの楽曲が全て収録されることは必然だったのだ。

「C3」は現在地点のBase Ball Bearのドキュメンタリー

バンドがスリーピースになり、体質が完全にこれまでと変わったここまでの3年間、音源のリリースを重ねスリーピースバンドとして体制が盤石になったこの1年間。それらを総括するアルバム「C3」は、現在のBase Ball Bearのドキュメンタリーとして機能する。

そのドキュメンタリックなコンセプトはアルバム曲にも表れている。最もドキュメンタリックな楽曲はM6の「EIGHT BEAT詩」だろう。

「EIGHT BEAT詩」は、ボーカルの小出が以前MCを務めていた「真夜中のニャーゴ」での特集「Base Ball Bear結成までの話映画化に向いてるんじゃね?特集」の続編とも言えるようなセルフボースト的な内容。挙げていけばキリがない程、これまでのBase Ball Bearの史実が固有名詞と共にリアルに描かれ、これまでの楽曲で歌われてきたモチーフが歌われる。

そしてこの楽曲が何より「Base Ball Bearのドキュメンタリー」的だなと思うのは、彼らの主武器であるギタードラムベースという体制ではなく、関根の新武器・チャップマンスティックと堀之内のドラム、そして小出のラップによって、つまりは「全く新しい取り組みで」やっているという点に他ならない。彼らがスリーピースバンドとして歌い続けるために「何か新しいことを」と始めた別プロジェクトのstico、マテリアルクラブでの経験や要素がフィードバックされて生まれたトラックに乗るリリックがここまでのBase Ball Bearの記録であるというところが、彼らが絶えず変化を重ねながらここまで活動してきたことの証明になっていて、その構造まで含めたドキュメンタリーとして「EIGHT BEAT詩」は「C3」の中でも重要な楽曲として存在している。

「L.I.L.」も現在のBase Ball Bearについての歌詞。

聞こえるか 聞こえるか 明るくて暗いサウンド

君もまた 君だけで一人 なのさ

生きている 生きている 降り注いでくる 未来に

ずぶ濡れでも 笑えたならそう 大丈夫 さぁ、いこう

Base Ball Bearのシリーズライブ「LIVE IN LIVE」を彷彿とさせるタイトルでありながら、それ以外の捉え方も可能な遊び心のあるタイトル。ソリッドなロックンロール調のサウンドと、憂いを帯びながらもサビに向かって伸びやかになる小出の歌声は、新鮮味と共にどこか懐かしさも覚える構成。「深い朝」(=「深朝」AL.「新呼吸」)や「小さな舟」(=「方舟」AL.「二十九歳」)のようにこれまでのモチーフが描かれ、「440ヘルツ」という彼らが基準としているチューニングの周波数(=「日比谷ノンフィクションⅣ」でのMCにて言及、Sg.「『それって、for 誰?』part.1」ボーナス・ディスク、M5「愛はおしゃれじゃない」に収録)までもが歌詞に出てくる。これもまた、現在のBase Ball Bearについて歌われた曲と言えるだろう。

このアルバムの流れで聞くと「ポラリス」も一層ドキュメンタリックに響く。「3」をテーマに現在の、そしてこれからのBase Ball Bearについて歌う歌詞は、ここまで、そして現在地点のBase Ball Bearを知っていればいる程に涙腺を刺激するし、それはこのアルバムの流れで聞くことでより一層強くなる。

「EIGHT BEAT詩」、「LI.L.」そして「ポラリス」と、今作はBaseBall Bearが純然たるスリーピースになる為に「歌われるべくして歌われた」「鳴られるべくして鳴らされた」曲が多く、その点こそ今作をドキュメント的だと感じる部分だ。そしてその「ここまでの記録物」としてのドキュメンタリックさは、同時に今後のBase Ball Bearがどう在り続けるかの表明にもなっている。そんな未来への可能性はアルバムを締める「風来」でどの曲よりも広がりを見せる。

「旅」をテーマとした歌詞は、常に年に複数回のツアーを行い、各地を飛び回りながらライブを重ね続けている彼らのありのままの感情を歌った歌詞と言える。

「血のめぐりを固めないためには『同じ姿勢でいないこと』」

小出が整体師に言われた一言をそのまま詞に落とし込んだこのフレーズは、同じ場所に留まらず、常に変化を繰り返しながら、そして意図しなかった変化すらも自身のポジティヴな変化として昇華させながら活動を続けてきた彼らのバンドの在り方が端的に示された詞と言える。それは今後も彼らが変化を重ねながら、これからもライブ、そして音楽という終わりのない旅を続けるという宣言だ。そんな彼らの宣言は、同時に僕ら聞き手の背中を押す。僕も人生という旅の中で、変化を重ねたい。彼らのありのままの姿を見てそう思わされる。

 

「C3」を経て純然たるスリーピースバンドとなったBaseBall Bearによる対バンツアー、アルバムツアー、そしてその先の「新作」。こんなにも魅力溢れる「C3」というアルバムリリースの直後だからこそ、次の作品が楽しみで仕方ない。まだまだ旅の途中、旅を続けるBase Ball Bearメンバー、そしてスタッフの皆様の敵をこれからも追い続けたい。

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