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雑記

カルチャーが好きなだけ。

書店員ふじもとが選ぶ個人的ベストコミック2016  

タイトルの通りです。2月も半ばで今さら2016年の振り返りをする時点でお察しではありますが、たまには音楽だけではなく漫画についても語ってみたいなと思います。

選考のルールとして、初巻(1巻)が2016年内に発行されたもののみ選びました。明確な順位があるわけではなく、出てくる順番は基本的に気分です。

 

①「星野、目をつぶって。」永椎 晃平 講談社

週刊少年マガジンで連載中のボーイ・ミーツ・ガール系群像劇学園ラブコメ。群れることで自分の居場所を確保する周りのクラスメイトを嫌い、それ故にどのグループにも属さずに、休み時間は寝たふりをし、クラスメイトの名前は覚えなかった主人公小早川は、ひょんなことから「住む世界が違う」と思っていたスクールカースト上位の星野海咲(みさき)のメイクを請け負うことになる。そこから彼の学園生活は思わぬ広がり方を見せることになって…?

学園ラブコメ、というのは王道中の王道ではあるし、「冴えない男」と「可愛い女の子」がくっつく、というのも正直ありふれた設定ではあるが、この「星つぶ」の魅力は「冴えない男」描写だと思う。どうしようもなく卑屈だし、根暗だし、日陰者。なんだけど明確な芯は1本通っていて、それを貫くためには泥を被ろうが、どんなに大勢が敵になろうが構わないという姿がそそられるのだ。特にこの描写が俊逸なのが2巻に収録されている第11話「世界をかえさせておくれよ」だ。いじめっ子に対抗する星野、それを見ていじめを見て見ぬふりしていた周りの群衆は途端に掌を裏返し、いじめっ子に対して缶やペットボトルを投げる。それを見た小早川はいじめっ子を庇い、自ら水を被る。

テメェら全員気持ち悪いんだよ どいつもこいつも横目で人の顔見ることしかしねぇクソ共だ!! 他人(ひと)の正しさに 間違いに 乗っかるんじゃねぇ 死ね!!!

「星野、目をつぶって。」第11話「世界をかえさせておくれよ」より引用

いつだって「学校」という社会では他人と合わせることが正義になり、人と合わせられない者は悪であり、“なにか”の標的にされてしまう。それが「学校」という社会の暗黙のルールだ。この作品のヒロインである星野も又、そんなルールに縛られて生きている。その暗黙のルールに明確なNoをつきつける小早川という主人公が僕にはとても魅力的に感じるのだ。

また、上記した11話のタイトルで気付いた方もいるかもしれないが、この作品の副題は邦楽作品から取られているものが数多く存在する。「世界をかえさせておくれよ」はサンボマスター、1巻4話はレキシの「キラキラ武士」、3巻第19話はグループ魂の「君にジュースを買ってあげる」などなど。こういった細かいお遊びも、作品を構築する要素として堪らない。

最新4巻が2月17日に発売されている。まだまだ4巻と浅いので是非手に取ってみてほしい。

星野、目をつぶって。(4) (週刊少年マガジンコミックス)
 

 

②「さよなら、ハイスクール」森もり子 秋田書店

主人公の朝倉はスクールカースト最下層。日々の教室での生活に限界を感じていた朝倉は、「スクールカースト上位である伊藤マユミと付き合う」ことでクラスのスクールカーストを破壊し、「イケてる奴ら」が支配するこの教室の秩序に混沌をもたらそうと画策する。一見無謀にも思えたこの計画がなんと成功、本当に教室の空気が徐々に軋み始めて…。

Twitterなどでその絵や漫画を見たことのある方も多いのではないだろうか。この作品の魅力はそれぞれの登場人物が明確な意思、意見を持っているところであり、又その意思や意見が表に出てくる瞬間の表現の仕方が独特なところだろう。

「童貞だから」って切り口で若さとか繊細さとかあるいは抑えきれない衝動とかを語るのは流石に古いなぁって... 正直私はままならない青春の痛みを「童貞であること」に集約させて象徴づけていく物語にうんざりしているんだよね… 10代が青春時代に抱えているものって性衝動だけじゃないでしょ? 朝倉くんのコンプレックスだってもっと別の所にありそうだしそれを「童貞」という記号で表すのは単純につまんないよ

「さよなら、ハイスクール」第6話「やめときましょうよ」より引用

これがメインキャラクターの伊藤マユミから、1コマのうちに発せられる。おい最早これキャラというより作者の気持ちじゃねぇか!とも思うのだが、この圧倒的な文章とその濃厚な文章が強烈なインパクトを与え、またこの作品の推進力にもなっている。

スクールカーストが徐々に壊れていく様は痛快そのもの。だが、スクールカースト上位に(結果的に)食い込んだ朝倉の葛藤も見ものだ。

 

先日、「さよなら、ハイスクール」公式Twitterアカウントがこんな呟きをしていた。

実に悲しいことだ。この作品、ネットで各話を先行公開してその後単行本化というスタイルを取っており、ネットでの閲覧数はかなり高いのだが、残念なことにセールスに結びついていない。閲覧数が高いということは作品の面白さは担保されているにも拘らずである。是非単行本を購入して読んでほしい。

さよなら、ハイスクール(1)(ヤングチャンピオン・コミックス)

さよなら、ハイスクール(1)(ヤングチャンピオン・コミックス)

 

 

③「ガイコツ書店員本田さん」本田 KADOKAWAメディアファクトリー

書店で戦う本田さんの奮闘エッセイ的漫画。日本語が通じない海外の方とのコミュニケーション、接客研修、コミックフェア、取次との争い… とある書店のコミック売り場で繰り広げられる日々の奮闘をコミカルに描く。

書店員マンガである。テーマがニッチ過ぎるのだが、一端の書店員としてこれを読まない分けにはいかないと読んでみたらこれがまあ面白いのなんの。というかこれが書店員の日常だと思ってくれて構わないと思う。僕はアルバイト風情なのでここまで苦労することはないし、そうでなくてもおそらくこの漫画の舞台の本屋と僕が働く本屋は規模が全く違うのだが、それでも共感の連続だ。とはいえ、書店員じゃない9割方の人はなかなか共感できない作品なのは間違いない。だけど、少しでも本屋が好きな人、本(特にマンガ)が好きな人、職場系エッセイが好きな人には自信をもっておススメしたい作品。特におススメの話は2巻第10話「気になるエロの話」。副題でお察しください。

ガイコツ書店員 本田さん 2 (ジーンピクシブシリーズ)

ガイコツ書店員 本田さん 2 (ジーンピクシブシリーズ)

 

 

④「肉女のススメ」小鳩ねねこ 少年画報社

「肉さえあればいいじゃないか。」立場も趣向も性格も全く持って噛み合わない、けれど唯一共通するのは「不器用OL」。そんな三者三様の3人がそれぞれ泣いて・怒って・悦んで…。とにかく肉を食べまくる!そんな肉女達のミート・コミック。

2016年のコミック的流行はグルメマンガだったように思う。昔こそ「クッキング・パパ」や「美味しんぼ」など、グルメマンガといえばある程度大人の男性が読むもので、そういう層に届くような作られ方をされていた。しかし2010年代に入って、「孤独のグルメ」が爆発的なヒットを見せたことによって、様々なグルメマンガ作品が作られた。この「肉女のススメ」もまた、そういった過程で生まれたものだろう。女性三人が主人公だが、「萌え」といった要素は全く感じさせない。3人ともどこか残念なオーラが漂っている。なにより肉をガツガツと食べる女性は「残念女子」「不器用OL」そのものなのだが、それが堪らない。「肉料理」と一口に言ってもその種類は多岐に及ぶ。ハンバーグにカツカレー、から揚げにキーマカレー。実に多様な肉料理が作品中に登場する。そのすべてを彼女たちが食すことで魅力的になるのだ。おススメの話は1巻第2話「吼える深夜のカツカレー」。カツ×カレー×深夜という魔の組み合わせ。美味いもんは美味いんだ。

 

⑤「味噌汁でカンパイ!」笹乃さい 小学館

「誰かに作ってもらう朝ごはんはね、おなかだけじゃなく心も満たすのよ。」___

父子家庭で育った中学生の善一郎の朝ごはんはいつもコンビニのおにぎりとインスタント味噌汁。見かねた幼馴染の八重が毎朝朝ごはんを作ってくれることに。読むだけでホッコリするハートフル味噌汁漫画。

こちらもグルメマンガ。とりわけ「味噌汁」とかなり的を絞ったグルメマンガ。「味噌汁だけで漫画が描けるのかよ」なんてお思いのあなた。味噌汁の道は実に深いのだ。味噌の種類、具材、変わり種味噌汁…。かくいう僕もこんなに味噌汁の道は深いのかとこの漫画を読んで感心したクチだ。加えて善と八重の関係の移ろいも見所だ。中学生だからこその温かい恋愛模様。味噌汁と合わせてほっこりすること間違いなしだ。おススメの話は2巻第7話「水もしたたる…?」。日本ならではの恵まれた水環境だからこそ、味噌汁という食文化が根付いたと考えるとこの話の味わいも深くなる。

味噌汁でカンパイ!(3) (ゲッサン少年サンデーコミックス)
 

 

⑥「木崎少年のほろにが喫茶巡礼」佐東武之 新潮社

「渋い大人」に憧れる木崎少年は喫茶店巡りを趣味にしている。大人と子供の狭間で生きる高校生の木崎少年は果たして「喫茶の流儀」を極めて「渋い大人」になれるのか!?

最後のグルメマンガ。実在する喫茶店が出てくるのだが、その喫茶店がどれも個性的。メガネカフェにフルーツパーラー、カップを自分で選ぶことができる喫茶店などなど、その守備範囲は多岐に及ぶ。カフェ自体の個性もさながら、出てくる飲み物や食べ物も個性的。キッシュにハンバーグサンド、バナナジュースにグランブルケーキ。そのどれも美味しそうに食べる木崎君がまたかわいらしい。高校生という大人と子供の狭間で、周りのお客さんや同級生、自我にあたふたしている「大人になりたい子供感」がたまらなく、愛おしさすら感じてしまう。おススメの話は1巻第5話「フルーツパーラーフクナガ」。頑固そうな親父が見せる満面の笑みにキュン。

木崎少年のほろにが喫茶巡礼 1 (BUNCH COMICS)

木崎少年のほろにが喫茶巡礼 1 (BUNCH COMICS)

 

 

⑦「あかいろ交差点」ひのなつ海 一迅社

入学式での出会い以来、主人公の蒔田恵太は大原たまきに拒絶され避けられ続ける毎日。2年生で同じクラスになったことをきっかけに意を決し恵太はたまきに理由を問いただす。するとたまきは「私と蒔田君は赤い糸で繋がっている」とまさかの告白を果たし…?赤い糸で結ばれた二人の青春ラブコメグラフィティ。

「赤い糸で結ばれている」というのは恋愛を題材にした作品の王道的なパターンで、その「赤い糸」は精神的なモノとしての「赤い糸」だったのだけど、この作品の面白いところは「まるで実在する糸のよう」な「赤い糸」として描いているのだ。勿論、「本当の糸」ならばそれはギャグ話になってしまうけど、「精神的なもののはずなのにまるで実在するかのように引っ張られ、絡まる」といった描き方をしているのがこのストーリーの斬新さと魅力につながっているだろう。所謂最近の草食系男子な蒔田とサバサバ系女子のたまきという組み合わせもベタながらベタならではの面白みがある。単行本は少しお高めだが、その分装丁がめちゃくちゃ凝っていて、ジャケ買いって感じで買ってしまった。装丁一発でも買いたくなる作品。おススメの話は1巻第4話「何気ない言葉」。いがみ合っていた2人が友達になる瞬間はほっこりする。

あかいろ交差点 (1)

あかいろ交差点 (1)

 

 

⑧「ブスに花束を」作楽ロク 角川書店

「自分はモブだ」と自虐的なブス・田端花はひょんなことからリア充・上野陽介や五反田鉄男、鶯谷すみれ、高校デビューの新橋と仲良くなりだして…ハートフルな自虐系喪女コメディ。

自虐的な田端と対照的なめっっっっっっちゃくちゃいい奴の上野の対比が面白い。どれだけ自虐的なんだよ!そんでどんだけいい奴なんだよ!!と逐一ツッコミながら読んでしまう。結構キツメのタイトルだけど、コメディとして、そしてちょっぴりのハートフル作品として優秀。闇深い系マンガ好きの僕には一服の清涼剤のような作品。おススメの話は1巻第5話「年に一度の主役日」。両親といるときに学校の友達と会ってしまったあの気恥ずかしい感じとかそれが却って痛々しくなっちゃうあの感じとかがスゴク上手く表現されていて爆笑してしまう。

ブスに花束を。 (1) (角川コミックス・エース)

ブスに花束を。 (1) (角川コミックス・エース)

 

 

⑨「ごくりっ」前原タケル 小学館

幼馴染のりこに片思いする高校生の拓。けれどりこには海外に彼氏がいて、叶わない恋を続けている。そんな中拓は「りこに俺のほうをむいてほしい」と恋愛成就の神にお願いする。するとりこには悪魔(?)がとり憑き、「拓の"アレ"を飲ませないとりこは死ぬ」と言い出して…。青春×エロティシズム・ラブストーリー。

やはりこの作品は設定の凄みに尽きる。どういう生活していたらこんな発想ができるのかがとても気になる。「飲まないと死ぬ」という極限状態、「飲む」過程でどんどん深くなる2人の関係、海外から帰国する彼氏。2人の関係はどんどんと泥沼に入り込んでいくのだけれど、それがどうにもこうにも面白いのだ。そして最後の自らのエゴを乗り越える拓のカッコよさったらない。おススメの話は1巻収録「第5話」極限状態の最たるものではないだろうか。全2巻完結というサッパリさも素敵!

ごくりっ(2) (ビッグコミックス)

ごくりっ(2) (ビッグコミックス)

 

 

⑩「私の少年高野ひと深 双葉社

スポーツメーカーに勤める30歳、多和田聡子は夜の公園で12歳の美しい少年、早見真修と出会う。それぞれが抱える孤独に触れた二人の距離はやがて徐々に近づく__________

 

今回の記事は敢えて具体的な順位はつけていないが、この漫画がナンバーワンなのは間違いがない。それくらい引き込まれた作品だ。僕自身、いわゆる「禁断の恋」がテーマの作品がすごく好きだ。サザンオールスターズ「LOVE AFFAIR~秘密のデート~」、小林明子「恋に落ちて-Fall In Love-」、初めての漫画体験も「小早川伸樹の恋」という不倫モノだった。「私の少年」は30歳と12歳という禁断の恋。何故僕がこんな「禁断の恋」がテーマの作品が好きなのか。それはきっと「失うものがあってもなお、相手のことを愛してしまう本気さ」を感じるからだ。妻がいる、娘がいる、家庭がある。それらを全て失っても一人の女性を愛してしまう「本気」。勤めている企業がある、信頼している同僚がいる。それでもなお12歳の男児に惹かれてしまう「本気」。高校生の恋愛なんか失うものなんか何もない。だからこその面白さがあるのもまた事実だが、少なくとも僕は「失うものがあってもなお惹かれてしまう恋」の「いびつな、でも美しい恋路」が好きだ。

12歳と30歳ならではのカルチャーショックや、家庭に蔓延する歪な空気、元カレ上司との関係性。そのどれもが結果として聡子と真修の関係をより強くしている。恋愛とはそういうものではないだろうか。自分の今居る環境における唯一の救いとなるのが「恋」だったりする。相手が幸せになってほしいと願うことが結果として自分の救いになるのが「愛」だったりする。

でも 俺ずっと 練習続けてたの あいたかったからです 聡子さんと

私の少年」第9話「嘘」より引用

このセリフが真修から出て、聡子が真修を抱きしめたところで最新刊は終わっている。こんなに続きが楽しみになる幕引きがあるだろうか。この2人の関係は一体どうなっていくのか。是非このドキドキと作品に流れるゾクゾクするような「禁断の恋」ならではの緊張感を感じてほしい。

私の少年 : 2 (アクションコミックス)
 

 

如何でしたでしょうか。2016年はグルメマンガがやはり強かったなというのが感想です。2017年に入って既にめちゃくちゃ推したいコミックスも発売されてきているので、また次回「ベストコミック2017」の記事でお会いしましょう。この記事を読んでいただいたあなたが書店に、本屋に足を運んでくだされば、それはもうこの上ない喜びです。