桑田佳祐は「君への手紙」で何を僕達に語りかけたのか

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2016年の桑田佳祐は「ヨシ子さん」という大作シングルをぶち上げることから始まった。春先からボツボツとメディア露出していた大衆受けしそうな楽曲たちを全て捨て置いて彼がA面に据えたのは、多国籍、あるいは無国籍さが漂う奇怪さすら感じさせる「ヨシ子さん」だった。サザンファン、音楽ファンだけでなく他のミュージシャンすらも驚かせた「ヨシ子さん」から半年、2016年秋に桑田がリリースしたのは温かみや人情、歌謡曲やサスペンス、切なさや冬らしさ、面白さといったこれもまた様々な要素の曲がこれでもかと収録された桑田佳祐らしいシングル作品だった。早速収録曲に迫っていきたい。

① 君への手紙
孤独の太陽」を彷彿とさせながらも、当時とは違ってシックな中に明るさを感じさせるようなアコギのストローク音。最初は弾き語りのようで、徐々に「ヨシ子さん」からの流れを彷彿とさせる打ち込みサウンドがまるでギター音を包み込むように流れ出す。アコースティックギターと打ち込みサウンドの組み合わせは違和感を感じそうだが、全くそれを感じさせず、むしろ新鮮味に溢れている。歌詞は僕を含めた彼より若い世代へのメッセージだろう。「人生とはサヨナラと出会いの繰り返し」である。その一瞬一瞬の出会いを大切にすることの尊さを桑田は僕達に語りかけている。

② 悪戯されて
「ヨシ子さん」がリリースされた同時期に、WOWOWで桑田の特別番組が放送された。「偉大なる歌謡曲に感謝 〜東京の唄〜」と題されたこの番組は、桑田佳祐のルーツの一端である「歌謡曲」の名曲たちを桑田がカバーするというものだった。「神田川」「東京砂漠」「東京ドドンパ娘」といった曲たちは、多かれ少なかれ日本人であれば馴染みのあるであろう曲たちだ。日本の言葉を大切にする歌謡曲の文化をぶち壊すようなデビューで一気にスターダムにのし上がった桑田佳祐が「歌謡曲」を歌う、という「意義」は誰しもが感じるところではないだろうか。番組の最後に「未発表の新曲」として歌われたのが「悪戯されて」だった。これまでも「チャコの海岸物語」など「歌謡曲」を感じさせる楽曲は沢山あったし、桑田佳祐の作る曲にはいつだって「歌謡曲」のエッセンスが散りばめられていた。そして今回の「悪戯されて」はその集大成と言わんばかりのモロ歌謡曲だ。「歌謡曲」というジャンルはいつしかJ-POPにすり代わり、最早「歌謡曲」なんてものは死語になってしまった。そんな中で桑田佳祐はきっと、日本人ならではの言葉を大切にする文化や歌謡曲特有の「艶」を日本にまた広めたいと感じたのかもしれない。

③ あなたの夢を見ています
80年代後半のサザンや桑田ソロを彷彿とさせる(=小林武史イズム)打ち込みサウンドが全面にフューチャーされたポップソング。明るい打ち込みサウンドで失恋を歌うのは「悲しい気持ち ~Just a man in love~」を思い出さない訳にはいかない。桑田ソロはサザンの反動なのか冬の歌が多い。この曲もまた「白い恋人達」「ダーリン」などの冬恋ソングの仲間入りと言ったところだろうか。カップリングだけというのは勿体無いくらいのハイクオリティ。この曲が今回のシングルで一番好き!という人も多いのではないだろうか。

④ メンチカツ・ブルース
今回の問題枠(笑)歌詞はダジャレだらけ、BIG3が謎の出演、突然のウ★コ(オマケにピー音)とまあ歌詞はろくなもんじゃない(笑)のだけれど、曲がカッコイイ!!「〇〇ブルース」は桑田佳祐楽曲史の中でも多用されてきたし、そのどれもがブルースとして優秀なのだが、特にこの曲、レベル高いなぁと思う。サウンドはギター1本だけ、あとはコーラスやSEが入ってくるくらい。この単純な構造に加え曲もメロディは1つだけなのだが、その繰り返しがより「ブルースっぽさ」を感じさせる。「桑田佳祐やさしい夜遊び」で以前歌われていたような即興ソングっぽさを感じる。のにメロディもカッコイイし歌い方も抜群。歌詞が残念なのが非常に惜しい。ま、ポップスターとして今までだってお笑い的な飛び道具はよくやってきたことだから、これもまたアリっちゃアリなのだが。

いずれの曲も、桑田佳祐の思いがギッシリ詰まっているように思う。人生における大事な事を語りかけ、日本語の美しさや艶を歌謡曲を通して表現して、失恋の悲しみを曲に乗せて励まし、ブルースのカッコよさをぶち上げてくれている。いずれも今の若手ミュージシャンからは感じさせないモノばかりだ。人生60年生きてきた桑田佳祐だからこそ歌えること、伝えれることを曲という名の「手紙」として彼がしたためたのがこの「君への手紙」というシングルなのだ。彼の生きざまを音楽という名の「手紙」を通して心に刻み込みたい。