【CDレビュー】「初恋」は、終わらない最初の恋【Base Ball Bear】

2012年に発売されたBase Ball Bearのミニアルバム「初恋」。「新呼吸」を経たBase Ball Bearの「恋愛」をテーマにした意欲作。外部のアーティストを招き、プロデュースを受けたり共作したりと今までになかった様なアクションを積極的に起こした作品になっている。 

初恋(初回限定盤)

初恋(初回限定盤)

 

 ①初恋

表題曲でもあるこの曲は、「映画 図書館戦争 革命のつばさ」の主題歌にも抜擢されている。「図書館戦争」は元々深夜アニメとして放送されていて、Base Ball Bearはそのエンディングテーマとして「changes」を提供していた。その流れで今回の主題歌にも選ばれたということになる。楽曲はBase Ball Bearの歴史の中でもかなりポップなモノに仕上がっている。「新呼吸」で「ギターロック」という言葉の定義みたいなものの幅をさらに広げた彼らの次のタームとしてポップソングを歌いたかったとボーカル小出祐介はインタビューで語っている。彼らは「初恋」というポップソングを作るために今までは使っていなかったコード進行を使っている。所謂「カノン進行」というもので、ミスチルやサザンが多用してきたモノだ。Base Ball Bearは「未知のコード感を持つバンド」としてデビューした。そんな彼らがド王道なカノン進行を使って楽曲を作るのが難産だったかは想像に容易い。そして歌詞もまた相当な難産だったと聞く。タイアップが付いている以上は納期がある。しかし今回小出は納期に出したモノを改めて手直しして再度タイアップ側に提出するというなんとも大変なことをしている。それだけ拘って作ったということだろう。歌詞は「初めての終わらない恋を初恋と呼びたい」という、恋したり結婚してたるするような全世代に届くようなモノになっている。2014年春に行われた「Tour 光蘚」ではバンドメンバーの初恋体験をイジった後に「初恋って絶対に叶わないような恋だけど、いつか結婚した時に、その相手との恋を初恋と呼びたい」というMCを挟んで歌われたこの曲には感動したし、僕もいつだってそういう気持ちで誰かを好きになったりしたいなと思わされた。

②ぼくらのfrai awei

ミュージシャンであり音楽プロデューサーでもあるヒャダインとの共作。小出祐介ヒャダインも報われない青春を過ごし、その「報われないモヤモヤ」があったからこそ「自らが作品を作り出しアウトプットする」ミュージシャンという道を選択したのだと思う。そんな2人が出会ったとき、こんなにも(良い意味で)残念な曲が出来るのかと感心した。曲も歌詞も小出とヒャダインの2人でリレー形式で作られた。題名の「frai awei」は間違えてるわけではなく「書けない」という設定。(地味に歌詞の中の「Good bye」も「Good bai」と間違えている。)イケイケのアレ〇サンドロスみたいな青春が描かれている訳ではなく、どこか暗くて、まさに「残念な青春」が歌われているのだ。「君の後ろをつけた 放課後の街角 嫌がられていたこと 人伝いに聞いたぜ」「君に逢える同窓会 いつかと待ちわびてた 呼ばれなかったこと 今日ネットで知ったぜ」なんて歌詞、悲しすぎて書けない(笑)良い意味で気の抜けつつ、こんな視点の歌なかなか無いぞ!な作品。

③君はノンフィクション

「ぼくらのfrai awei」は「こんな視点の歌なかなか無い」と書いたが、世界中探しても「君はノンフィクション」と同じテーマの作品は無いんじゃないかと思わされる。「学生時代に付き合っていた女の子がアダルトビデオに出演していて、たまたまそのビデオを見てしまった男の視点」。こんなの無い。絶対に無い。「つらいけど けがれた花は より美しい」なんて切なすぎる。どこまでも辛くて哀しい。その切なさや辛さや哀しさがどうしようもなく好きだ。この作品はプロデューサーに岡村靖幸が据えられており、岡村を「音楽の神様」として崇める小出にとってはまさに念願のコラボだった。岡村靖幸がプロデュースをしているということもあって本来Base Ball Bearとしては禁じ手であるシンセが入った作品になっている。これは「楽曲として一番幸せなゴールを迎えさせたかった」という小出の気持ちがあったからこそである。またこの作品があったからこそその後の「愛はおしゃれじゃない」に繋がったと思うと考え深い。

④60-Minute Live Track From “TOUR 新呼吸

アルバム「新呼吸」を経た彼らのライブの空気感をそのまま封じ込めたようなトラック。60分と長いトラックだが「新呼吸」の「1日の時間軸」というコンセプチュアルな世界観の真髄を60分通して聴くことでより体験できるような作りになっている。「新呼吸」を聴いた方は是非こちらも聞いてみてほしい。

 

 

「初恋」に収録された3曲は「その後のBase Ball Bear」を予感させるような曲が多く占めている。特に「君はノンフィクション」の物語性の高い歌詞は、その後の「PERFECT BLUE」に通じるモノを感じさせる。一通りBase Ball Bearの有名どころは聞いたよ!という方に是非聴いていただきたい1枚である。