「キラーストリート」は本当に駄作だったのか?

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サザンオールスターズ14枚目のオリジナルアルバム「キラーストリート」。当時7年振りにオリジナルアルバムを発表したサザンはその後五大ドーム含むツアーを展開。年越し公演にてツアーは幕を下ろした。その後、2008年の活動休止時には「『キラーストリート』でやれることは全てやった」とし、5年間サザンとしての活動は止まってしまった。その間、そして活動が再開した今も桑田佳祐の「キラーストリート」に対する否定的な意見はよく(主にラジオで)耳にする。

作った本人がここまで過剰に否定的な発言を繰り返すキラーストリート本当に「キラーストリート」は駄作だったのだろうか?敢えてこういったタイトルにさせていただいた。この記事ではそこに迫っていきたい。

キラーストリート」の特徴としてその量、ボリュームが挙げられると思う。オリジナルアルバムで2枚組30曲ってぶっ飛びすぎだ。はっきり言って「異常」である。意味がわからん。それくらい「オリジナルアルバム2枚組30曲」というのはインパクトのあることだと思う。しかし、その情報量故に既発曲が多くを占めている。30曲のうち11曲、3分の1以上が既に発売済の楽曲だった。特にDisc2の後半は既発曲が多く、中だるみしたままアルバムが終わってしまう印象。これこそがキラーストリート最大の長所であり短所だ。既発曲の多さ故にベスト盤に近い印象で聴ける。その反面、アルバムの世界観がイメージしにくい。大体11曲ってほとんどアルバムそれで作れるじゃねぇか!!!と。同じ2枚組のオリジナルアルバム「KAMAKURA」は曲数も20曲と絞り、デジタルサウンドに特化させるなど、世界観をある程度しっかりと構築している印象が強い。そここそが「KAMAKURA」と「キラーストリート」という同じサザンの2枚組オリジナルアルバムにも関わらず、評価が強く違う決定的な原因ではないだろうか。

このアルバムは既に発売済の楽曲含め、比較的ポップ的要素が強い楽曲が多い。これは「世間がイメージするサザン」そのままで、それこそがこのアルバムの一番の強み。ではあるが、あまりにもカップリングや所謂"捨て曲"も多いのは否定できない。事実、20分程度で書き上げ、一発録りで完パケした曲や桑田ソロの「ROCK AND ROLL HERO」制作時のボツ曲から拾ってきたとされている楽曲も少なくない。勿論、20分で作ろうが一発録りだろうが過去作のボツ曲のリサイクルだろうが「良い作品」ならばそれはそれで良いのだが、楽曲としてのクオリティが高いとはお世辞にも言い難い気がするのだ。もう少し良曲を取捨選択してボリュームを抑えれば、サザン史上でも類を見ないほどポップに富んだアルバムに仕上がっていたのではないだろうか。
そういった想定の元、筆者が独断と偏見で選曲してみた。言わば、「ふじもと版キラーストリート」だ。

  1. ごめんよ僕が馬鹿だった
  2. セイシェル〜海の聖者〜
  3. 神の島遥か国
  4. 涙の海で抱かれたい〜SEA OF LOVE〜
  5. 八月の詩
  6. リボンの騎士
  7. 彩〜Aja〜
  8. 別離
  9. 愛と欲望の日々
  10. 君こそスターだ
  11. 限りなき永遠の愛
  12. BOHBO NO.5
  13. LONELY WOMAN
  14. キラーストリート
  15. ロックンロール・スーパーマン
  16. 引き潮〜Ebb Tide〜

こうしてみるとシングル曲がやはり過剰な気もするが、確実にスッキリはした。このくらいにしてしまえばよかったのではないだろうか。桑田佳祐はこのアルバムを制作する際に、「質より量」だと思い、こういったアルバムを制作したそうだ。しかし結果として、
アルバムの世界観は曖昧なものとなったことは事実だろう。

さらに曲数を増やした弊害がもう一つ。ツアー時にも未披露の曲が大半を占める事態となってしまった。ツアーのセットリストにあまり文句は言いたくないが、キラーストリートのツアーに関しては「ほとんどキラーストリートの楽曲だけで構成してしまえばよかったのに」と思っている。サザンのライブはここ数年、(真夏の大感謝祭のような)一部のコンセプトの強いモノを除けば、30曲前後を目処に毎回構成されている。奇しくもこのアルバムもピッタリ30曲だ。本編をアルバムの曲のみ、アンコールをそれ以前の楽曲で組めば割と面白いツアーになったんじゃないだろうか。このアルバムには盛り上がる曲も、サザンの十八番である湘南バラードも、意味不明ソングも、社会風刺ソング、ゴリゴリのロックもすべて揃ってる。ライブの構成的に聴き手を飽きさせることは無いはずだ。
ここでもセットリストを考えてみた。「ふじもと版みんなが好きです!ツアー」。

1.からっぽのブルース
2.セイシェル〜海の聖者〜
3.神の島遥か国
MC
4.彩〜Aja
5.恋人は南風
6.八月の詩
7.LONELY WOMAN
8.別離
9.夢に消えたジュリア
MC
10.愛と欲望の日々
11.JUMP
12.DOLL
13.愛と死の輪舞
14.殺しの接吻
15.恋するレスポール
16.Mr.ブラックジャック
17.夢と魔法の国
18.The Track for the Japanese Typical Foods called ”Karaage” & ”Soba”
MC
19.リボンの騎士
20.山は在りし日のまま
21.キラーストリート
22.限りなき永遠の愛
23.ロックンロール・スーパーマン
24.ごめんよ僕が馬鹿だった
25.君こそスターだ
26.涙の海で抱かれたい〜SEA OF LOVE〜
27.BOHBO NO.5
MC
28.引き潮〜Ebb Tide〜
Enc
30.LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜


みたいなね?ちゃんと作られた楽曲がちゃんとライブで披露されないというのはやはり楽曲にも作り手にも良い事ではないと思うし、(作った側も含め)ライブで披露して初めてわかる事が沢山あるはずだと思う。それがキラーストリートは圧倒的に足りないことも、「駄作」とされてしまう所以だと感じる。

色々と文句を言ってきたが、決して嫌いなアルバムというわけではない。個人的には「KAMAKURA」の方が暗くて好きになれないアルバムだった(羊・葡萄の旅での楽曲披露でだいぶその印象も変わったが)。しかし単純に好き嫌いではなく、素人目にも割と明らかに「ここをこうしたほうがいいんじゃ...?」という箇所が見つかるのは致命的な欠陥だと言わざるを得ない。勿論、メンバーはじめ沢山の人が考えてこういうモノが作り出されていて、僕なんかが考えもつかないようなアイデアや意見が山ほど出てるんだろうということは想像するに容易いし、その結果ああいった作品が作られたということは十二分に承知している。しかし、結果として作った本人が作ったものに対して否定的な意見を連発するというのはやはりファンとしては悲しいことだし、それについて何か改善策を聞き手である僕らが思いつくのならばそれはしっかり発信していきたいと思ってしまうのだ。

この記事のタイトルでもある「キラーストリートは本当に駄作だったのだろうか?」。「それぞれの曲自体は決して悪くない。しかし、アルバムの構成・ライブでの披露等様々な悪条件が揃った結果、作った自らが駄作と評価してるかのような否定的なコメントを繰り返す作品なってしまった」そして「『質より量』というコンセプトはアルバムの世界観を損なうモノで、量を揃えたとしてもその上でシビアな選曲をする必要があったのではないか」というのが僕の結論だ。